劇場公開日 2009年6月20日

劔岳 点の記 : インタビュー

2009年7月1日更新

八甲田山」「復活の日」「駅 STATION」など日本映画の名作・大作を数多く手掛けてきた名キャメラマン木村大作が初メガホンを取った「劔岳 点の記」。新田次郎による同名小説を原作に、ただ地図を作るため、前人未踏の劔岳山頂を目指した男たちの命懸けの闘いを描いた本作について、2年間の撮影を経て本作を完成させた木村監督に話を聞いた。(取材・文:編集部)

木村大作監督 インタビュー
「もう50年この仕事をやってるわけだから何かに賭けたくなるんだよ」

2カットのために9時間も登山した本作の撮影隊と、“ただ地図を作るため”に登山した明治の測量隊がシンクロする
2カットのために9時間も登山した本作の撮影隊と、“ただ地図を作るため”に登山した明治の測量隊がシンクロする

──「儲かることばかり考えて映画を作っているから、今の映画界はおかしくなった」とどこかで言ってましたが、やはりそういった思いが今回の初監督作に結びついたのでしょうか?

映画人生50年の大ベテラン 木村大作監督
映画人生50年の大ベテラン 木村大作監督

「まあ、そういうことだよね。例えば、ストーリーの組み立ての点でも、日本人はなぜか泣ける映画が好きですよね。でも、この映画は誰も死なないし、誰も病気にならないし、悪人が出てこないしで、善人ばかりの話じゃないですか。だから今時の映画人はそれを映画にしようなんて全く考えないのね。あなた方にとって『ドラマ』っていうのは何だって聞いたら、『誰かが死んだ死なない、お前が悪人だ、病気で生きた死んだ』ということを言うんだよ。だから、僕はそういったことをすべて外して、『日常を撮っても映画は成立する』『大自然がドラマを作る』ということを、この映画の企画を持って歩いていたときに話しました。要するに『皆さんが作っているような映画を僕が監督したってしょうがないでしょう』ということを言ったんですよ。

やっぱり自分自身が本物にこだわった映画が見たいし、本物にこだわる映画で勝負したかった。ある種の賭けだよね。僕ももう50年この仕事をやってるわけだから何かに賭けたくなるんだよ。だから集大成とか、何かを遺したいっていう気持ちとは全然違うんだよね」

──今回の企画に賛同して出資した企業もこのご時世では珍しいですよね。

「信じられないよねえ(笑)。僕としてはこの企画のことを考えていたら、また3年は夢中で生きられると思っていたから、もし製作にゴーサインが出なかったら、今頃まだ車で一人ウロウロ回っていたと思う。もちろん一人では映画は出来ないんだけど、キャメラマンとしてはいつもそうやってロケハンをしてきたからね。

だけど、ある日お金が集まって、製作されることになったとき、日本映画界もまだまだ捨てたもんじゃないと思ったよ(笑)。もちろん自分で撮るんだから映像に対する保証はあったよ。でも演出面では、『木村大作になにが出来るんだ』って思っている人は映画界にいっぱいいる。だから、そう思っている人たちに『今に見てろ!』っていう気持ちもあったしね。僕は昔から『意地』っていう言葉をよく使うんだけど、今回はまさにそれだったよ。よくぞ実現した、よくぞ完成させたって思ってますよ、今は」

──初めてのシナリオ作りも大変だったのでは?

陸軍参謀本部の測量手・柴崎(浅野)と 地元大山村の案内人・宇治長治郎(香川)
陸軍参謀本部の測量手・柴崎(浅野)と 地元大山村の案内人・宇治長治郎(香川)

「原作があるからね。原作から(シーンを)抜いて行くわけだけど、自分の考えで変えるところは変えている。それは原作者の新田次郎さんの息子の藤原正彦さん(ベストセラー『国家の品格』著者)からは『原作の精神を変えなければ、どう変えても結構です』と言っていただいていたからね。

この映画はテーマとしても、『ただ映画を作るために献身している』自分と、『ただ地図を作るために献身する』明治の男たちが、シンクロしていると思うわけ。だから、自分の思い描いたとおりの映画が出来ると思っていたんだ。シナリオには、『誰かが行かなければ道は出来ない』『何をしたかではなく、何のためにしたかが大事だ』等、魯迅や山本周五郎からインスパイアされた言葉や今までの自分の人生の中で蓄積された、生き方の指針みたいな言葉をかなり入れている。

ぶっちゃけていうと、ラストの山岳会による手旗を振るシーンは原作になくて、山岳会は実際には2年後に登ったんだよ(笑)。あそこは『遠くにいる人でも気持ちは通じる』っていうことを映画のシーンとして凝縮して描きたかったから入れたんだ。この映画を作った理由は、そういった自分の生き方や精神性を、劔岳という大自然を背景に、そのまま乗っけてしまえば出来ると思ったからなんだよね」

>>木村大作監督 インタビュー その2

インタビュー2 ~木村大作が語る、初監督作に賭けた思い(2)
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