スカイ・クロラ The Sky Crawlers : インタビュー
押井守監督インタビュー
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■監督自身の変化がもたらしたもの
――ここ2年ほど体を鍛えられているそうですが、そのことによる変化は?
「落ち込まなくなったよね。コンスタントに仕事ができて、充実してた。現場で一番元気だと言われてた。『イノセンス』の時はつらかった。しょっちゅう寝込んでて、胃が痛かったし、禿げたし、太ったし……しんどい現場は、ストレスで食べるから太る。監督が太り始めたら赤信号だね(笑)」
――「攻殻」「イノセンス」では、人間の肉体の曖昧さも描かれていましたが。
「やっぱり不健康だったんだよね。健康になったら作るものがまるっきり逆になるということでもないけど。特に『イノセンス』の時はひどかった。更年期障害もあったんだろうけど」
――「イノセンス」もある種のラブストーリーであっても、バトーと素子の触れ合いはありませんでした。今回はキスや抱擁という直接的な肉体の接触が描かれていて、それも意識の変化の表れかなと思ったのですが。
「それはあるかもよ。色気づいたし。ただ、今回は愛とか恋愛というよりも、“愛欲”ということで、全然テーマが違うんだ。例えばバトーが犬と暮らしているとか、素子のことを想ってるということと、ユーイチとスイトの関係っていうのは全然別物。愛欲だからこそ破綻する。バトーと素子の間は破綻しないし、だからこそ犬とか無機物とかに向かうのであって、人間が人間に向き合えば破綻するに決まってる。まあ、もともとバトーは半分機械だけど。それでいうと、愛欲とかいう感情になりようがない。だから、そうしたものに向き合うのは、今回が初めてだと思う」
――今回は若者に向けた作品ですが、若者を意識するようになったのは?
「それも結局、自分が変わったからだと思う。体を鍛えて元気になったというのもないとは言えないけど、基本的に年を取ったということなんだよ。年を取ると枯れるんじゃなくて、意欲的に、貪欲になる。年を取ったら枯れるというのは、“年寄りには枯れてほしい”という世の中の願望でしかない。実際は、残り少ない人生だからこそ、あれもこれもと思うんだ。逆にいえば、若い連中はまだ先があると思っているから淡白で、欲望の先延ばしができる。自分が年を取って、そいうことがわかった。機械とか動物とかも相変わらず好きだけど、年を取ったことで逆に人間的なもの、人間くさいものに興味が出てきて、その中で若者というのも視野に入ってきたんだと思う」
■押井守が次に向かうところ
――「攻殻機動隊2.0」のように過去の作品を手直しするのは初めてですが、これもどういった心境の変化で?
「基本的に昔のものをいじってもしょうがないんだけど、その意味があるとしたら、そのことが次に対する投資になっているかどうか。平たく言えば、次にやろうと思っていることに関係があるから。だから、実はあれは“開発”なんです」
――では、押井監督の次に向かうところは?
「『スカイ・クロラ』をやって、『攻殻』の手直しをして、次にどんな方法論で何を目指すかというのは見えてる。僕にとっては映画を作るというのは、明らかに“発明”なんだ。また違う映画を発明しないと、僕の仕事はできない。『スカイ・クロラ』と同じ形式で同じような勝負をしても、次はもっと(結果が)下がるのは見えているから。今はその発明に取りかかっているところ。『スカイ・クロラ』を作っている間に、なんとなく予感はしてたけどね。次はこれしかないなと。何かというのは企業秘密だから言わないけど(笑)。ただ、『スカイ・クロラ』と『攻殻2.0』を並べてみればすぐにわかる。勘のいい人間だったら察しはつくと思う。でも、それをやるためには、まずは『スカイ・クロラ』を成功させることが第一歩。だからこうして宣伝のキャンペーンも頑張っているわけ(笑)」