ロゼッタ : 映画評論・批評
2000年2月29日更新
2000年4月8日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
ヨーロッパの若者の現実を描いたパルムドール受賞作
ダルデンヌ兄弟の主題やスタイルは、彼らの生い立ちやキャリアと深い結びつきがある。労働者のコミュニティで育った彼らは、その記憶=歴史を後世に伝えるために労働運動などのドキュメンタリーを作り始めた。そんな彼らが、劇映画に表現の可能性を求めたのは、時代の流れのなかでコミュニティが解体し、人々が孤立し、新しい世代にとって歴史が何の意味も持たなくなってしまったからだ。
彼らは劇映画を通してこの現実を徹底的に掘り下げ、普遍化し、そこから未来=新しい記憶を切り開こうとする。自堕落な母親から何の記憶も得られず、孤立した状況のなかで壮絶な苦闘を余儀なくされるロゼッタ。彼女の物語から浮かび上がるのは、親から子へと伝えられてきた最低限の価値観すら空洞化してしまった現代そのものだと言える。
この映画のなかでロゼッタは、母親と同じような非人道的な存在になっても仕事を得るか、社会から抹殺されて無になるかの残酷な二者択一を迫られる。彼女はその両極を激しく揺れ動くが、最後に他者との感情の衝突のなかで、初めてこの二者択一が作りあげた檻から外に踏み出す。それは、彼女が新たな記憶の糸口を開く瞬間でもあるのだ。
(大場正明)