劇場公開日 2007年2月10日

「静かな中に、力強さがある傑作だ。」善き人のためのソナタ 瀬戸口仁さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0静かな中に、力強さがある傑作だ。

2024年11月12日
PCから投稿

旧東ドイツ。秘密警察(シュタージ)のヴィースラー大尉は、劇作家ドライマンの盗聴に従事する。盗聴を要請した大臣は、ドライマンの恋人に対して、邪な気持ちを抱いていた、、、。

極めて上質で静謐な空気のなか、胸が押しつぶされそうな、ヒューマン・スリラーだ。ウルリッヒ・ミューエが、劇作家の思いを知り、次第に本当の自分を発見する主人公を、見事に演じている。

国家のためにと言いつつ、己の欲望を満たすための欺瞞、一度かけられたら、執拗に追及される疑惑、そして、自由にものが言えない専制主義の息苦しさを、非常に落ち着いた雰囲気で醸し出している。

自分の人間性を発見したスパイを主人公に、繊細で巧みなストーリー運びで、一種の大きな賭けに出た男を、絶妙な緊張感で描く。悲劇的な人間ドラマの中で、恐怖体制を暴露し、個人の強烈な反抗を、静かな中に力強く描いた傑作だ。

瀬戸口仁