劇場公開日 2007年2月10日

善き人のためのソナタ : 映画評論・批評

2007年2月13日更新

2007年2月10日よりシネマライズほかにてロードショー

正義ではなく羨望こそが人を動かす。しかしそこからでも善は生まれうる

盗聴と密告によって体制を維持し続けた監視国家、旧・東ドイツ。その忌まわしい実像は万人が知っていたはずだが、ベルリンの壁崩壊後17年経ってようやく本作のような映画が生まれたことに、ドイツ国民の傷の深さを感じずにはいられない。

しかも主人公は監視体制の総本山ともいうべきシュタージ(国家保安省)の敏腕局員。感情を押し殺してきた(というかすでに失っているように見える)彼だが、著名劇作家と女優のカップルを日夜盗聴するうち、自分でも意外な方向へと情動が動いていく。

沈欝なムードと色調の中、劇作家たちの生活をじわじわ侵食する悪意はまさに恐怖。その悪意のひとつの源でありながら(結果的に)人間性に目覚めてしまう主人公、その覚醒の理由をきれいごとにはしないところに誠実さを感じる。自由と愛と芸術を希求し苦悩に生きるカップルに惹かれた……というよりはむしろ、アパートの住民には陰口叩かれ、愛は手近の娼婦と惨めなセックス、組織の中では醜い政争の駒にしかすぎない自分の生活との落差に気づいてしまったからなのだ。

正義ではなく羨望こそが人を動かす。しかしそこからだって善は生まれうる。なんと正しい人間観察であることか。

(ミルクマン斉藤)

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