劇場公開日 2025年1月31日

  • 予告編を見る

「誰もが罪人の、この世界。」セブン しゅわとろんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0誰もが罪人の、この世界。

2025年2月12日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

現在IMAXで再上映中の映画「セブン」。名前くらいは聞いたことがある程度で、内容について何一つ知らなかった私は、「再上映されるくらいだ、名作なのだろう」という軽い動機でチケットを購入した。………上映後、あんまりにもあんまりなその結末に呆然とし、心にぽっかりと穴が空いたかのような虚無感に襲われた。

まもなく退職する刑事ウィリアム・サマセットと、新人刑事デビッド・ミルズは、とある殺人事件を皮切りに相棒となる。続発する「七つの大罪」をモチーフとした猟奇殺人事件。2人はその犯人を追っていくが…。

評価すべき点は沢山あるが、この映画を語る上で外せないのはストーリーだろう。
残虐な事件を数々引き起こす犯人を、新人とベテランの刑事コンビが追っていくサスペンス。これだけならごく平凡な刑事モノ映画だ。そう、これだけなら。
序盤は淡々と事件を捜査していくのみであまり大きな展開は無いが、終盤に至る伏線が数多く散りばめられている。犯人を特定した中盤からは、ストーリーが一気に動き出す。

特筆すべきは犯人の、常軌を逸した所業と狂気である。
刑事モノのお約束をとことん裏切り、全く予想のつかない行動を取り……そして映画史に残る悍ましい結末へとミルズ達を導いていく。
詳しいバックボーンは何一つ明かされず、動機も確固たる物があまり語られない。観客の解釈次第といったところだろうが、ケヴィン・スペイシー氏の熱演もありどこまでも不気味で恐ろしい犯人だった。
その犯人があぶり出すのは、「人は誰しもが罪の火種、『七つの大罪』を抱いている」という、残酷にして無慈悲な現実である。その計算し尽くされた計画の果ての結末には……心が抉られるどころではなかった。
犯人以外にも「こんな世の中で」等、世間そのものへの否定的な台詞が数多い。その果てにあまりにも絶望的な結末が待っている。メンタルが弱っている時にこの映画を観ようものなら、世界そのものに絶望してしまうかもしれないほどだ。

画作りにも惹かれた。私が一番気に入ったのはブルーがかった画面に大雨の中で繰り広げられる、ミルズと犯人の激しいチェイスアクション。緊迫感溢れるカメラワークに、マンションの中を突っ切っていくというシチュエーション。「絶対に逃さない」というミルズの意志が、カメラを通してこちらに伝わってくるようだった。
オープニング映像もオシャレでカッコいい。クレジットにはタイプライター的フォントと、書き殴られた文字のようなフォントを巧みに織り交ぜ、バックの映像にもこだわる。観終えた今思い返してみれば、犯人と刑事達の戦いをネタバレ抜きで表現しているのではないか。ハードボイルド感溢れる編集もあり、かなり私のツボに刺さるオープニングだった。

音楽も効果的だ。ダークでハードボイルドなこの映画の世界観を十二分に表現している。中でもエンドクレジットで流れる主題歌、デヴィッド・ボウイ氏の「The Hearts Filthy Lesson」は素晴らしい。ダークな曲調で映画を締めくくってくれるのは勿論だが、何よりも観たあとに是非、歌詞の和訳を調べてみてほしい。「ヤツ」の心そのものを表現した、恐ろしい歌詞だということが分かるはずだ。

勿論役者も超一流。バディの刑事2人を演じるのは、モーガン・フリーマン氏とブラッド・ピット氏。正義感、熱さ、冷静さ……主演2人の演技が、ストーリーをよりドラマチックに彩ってくれる。中でも雨のシーンのブラッド・ピットにはシビレた。これぞ「水の滴るイイ男」である。

ほぼ笑いどころの無いシリアスなストーリーに加えてグロテスクな表現も数多いが、ダークな世界に浸りたい、後味の悪い映画を探している、ハードボイルドな刑事物を観たい……といった方にはこれ以上無いオススメ映画だ。題材が題材なので、観た後の解釈や考察も捗るだろう。知的でビターな映画体験を楽しんで欲しい。

しゅわとろん
ノーキッキングさんのコメント
2025年2月12日

当初はデンゼル・ワシントンを想定した脚本だったのですが、フリーマンで正解でしたね。

ノーキッキング