「単なるドキュメンタリー映画ではありません 21世紀とは何か? 私達の文明の価値とは何か?まで問うているのです」ユナイテッド93 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
単なるドキュメンタリー映画ではありません 21世紀とは何か? 私達の文明の価値とは何か?まで問うているのです
2001年9月11日火曜日、
午前8時45分から10時半頃までの短時間にハイジャックされた4機の旅客機が次々とビルに激突し、1機は墜落しました
本作のタイトルは、その墜落した1機の便名ユナイテッド航空93便のこと
日本時間は夜の9時45分から11時半頃のこと
あなたはその時何をしていたでしょうか?
米国人なら誰もが鮮明にその時のことを思い出せるそうです
日本人でも思い出せる人は多いと思います
終電近い電車で疲れ果てて帰ってきてテレビの映像を見てまるで特撮映画だ!と驚愕したものでした
今日は2021年8月11日
あと1ヵ月でちょうど20年です
テレビの前で衝撃を受けた人、まだ子供だった人、まだ生まれても無かった世代の人もいることでしょう
もしかしたら、現地に居合わせた人もいるかもしれません
あれから何ヶ月もアメリカに入出国出来なくなったことも思いだしました
21世紀はこのような形で幕をあけたのです
本作の序盤はNYのおとなりニュージャージー州のニューアーク国際空港のシーンです
マンハッタンから車で30分くらいですから羽田みたいなもんです
8時発サンフランシスコ行き
日本なら大阪伊丹便みたいなもの
光景はどこの空港でもおなじみのありふれたもの
しかしこの便に乗り合わせた者は全員死ぬことを私達は事実として知っています
機材は757、日本の航空会社は採用してないので国内ではまず見かけない飛行機です
182人乗りなのに乗員乗客は44名しか搭乗してないのでガラガラです
5時間掛かるので、ガチのビジネス客は昼1時過ぎ着の便では仕事にならないのでもっと早朝の便に乗っているのでしょう
それが2021年の私達には、なんとも大昔のんびりした牧歌的光景に見えます
911、テロ戦争、コロナパンデミックを経て、私達の目にはもはや取り戻せない楽園の日々の光景に見えるのです
常に緊張にさらされて生きて行かねばならない時代に私達は置かれているのです
戦いは遠い外地ではなく
頭の上に突然降って墜ちるかもしれないのです
1982年、「第三の波」アルビン・トフラー
1992年、「歴史の終わり」フランシス・フクヤマ
1996年、「文明の衝突」サミュエル・P・ハンティントン
21世紀はこの3冊の著作でデザインされた世紀であると思います
前二つの本は、その後の世界がなる程その論説通りの展開を示し、21世紀の土台を形作っていきました
ところが最後の一冊の意味は単に文明の分類くらいの一般論の本にしか捉えていませんでした
しかしそれは21世紀の幕明けとともに、いきなり911として、こういう意味なのだ!と人類に教育を施したのでした
今もこの3冊が21世紀を支配していると思います
この3冊を真剣に読んだのは、中国人とイスラム教徒であったことが、いまならはっきりわかります
燃えて黒煙を上げ、やがて崩落していくWTC のニュース映像
ペンタゴンの突入映像
そして本作のユナイテッド93便が墜落したクレーター
雷鳴が轟いたかのように、21世紀とはこのような世紀であるのだ!との啓示をうけたものでした
私達のそれまでの文明が崩れ去っていく光景に、WTC の崩壊は自分の目には見えたのです
そしてさらにコロナ禍まで留めを刺すかのように襲いかかって来たのです
序盤の楽園のような日々を私達は取り戻せるのでしょうか?
誰もマスクなぞせずスキンシップを交わし、保安検査もそれなり程度の平安な日々
それを次世代に取り戻してあげる責任が、この911を目撃した私達の世代にはあるのです
単に話せば分かる
車座になって酒を飲み交わせば分かり合える
ナンセンス!
そんなナイーブなことは有り得ないことは、本作をみたなら誰もが分かると思います
これは文明の衝突そのものなのです
本作の乗客達のように、立ち向かって戦うしかないのです
私達は、いつかまたユナイテッド93に乗り合わせるかも知れません
それは自分であるかもしれません
あなたであるかも知れないのです
本作の乗客のように自分は勇気を持って戦いに参加できるのだろうか?
あなたはできますか?
座席の後ろに隠れてもなにも解決しないのです
ユナイテッド航空93便
2001年9月11日火曜日現地時間10時3分11秒
日本時間同日午後11時3分
ペンシルベニア州ピッツバーグ郊外シャンクスヴィルの農地に真っ逆さまに猛速度で墜落
巨大なクレーターができたのです
ワシントンDCまであと200キロ
ホワイトハウスか議会議事堂に突入していたはずです
劇中の犯人のセリフの通り飛行機なら20分くらいの距離
自分達の命を救うための戦い
しかし文明を救う戦いであったのです
本当の英雄達です
ボーンアイデンティティシリーズのポール・グリーングラス監督作品
ボーン・スプレマシーとボーン・アルティメイタムの間に撮られた作品です
彼のドキュメンタリー映画出身の作風と、異様なまでのリアリティを追求した製作姿勢が作品の緊張感と現実感を圧倒的なまでに高めています
ジッロ・ポンテコルヴォ監督の1966年の「アルジェの戦い」の正統なネオリアリズモの系譜に連なる作品です
誠実な製作姿勢には心を打たれます
感動しました、しばらく動けなくなりました
DVD の特典映像に、本作の俳優何人かが、彼ら彼女たちが演じた本人の遺族を訪ねて交流しているものがあります
結構長いものですが絶対ご覧になるべきだと思います
単なるドキュメンタリー映画ではありません
21世紀とは何か?
私達の文明の価値とは何か?まで問うているのです