「確固たる機械描写が最大の魅力、曖昧な人間描写が最大の難点」スチームボーイ Elvis_Invulさんの映画レビュー(感想・評価)
確固たる機械描写が最大の魅力、曖昧な人間描写が最大の難点
時は産業革命期イギリスのマンチェスター、主人公ジェームス・レイ・スチムは祖父ロイド、父エディを敬愛する発明一家の子。
より強力な蒸気機関を可能にする超高圧蒸気封入器”スチームボール”を巡る科学者たちの衝突にジェームスは巻き込まれ、巨大蒸気装置”スチーム城”がロンドンを震撼させる……
サイバーパンクの傑作として今なお名高い『AKIRA』で知られる大友監督が描くスチームパンクの大作。
監督のこだわった蒸気と機関の描写は流石であり、その躍動・熱気・存在感はスチームパンクという虚構を凄みを以てこちらに納得させてくれるものがある。
ただ哀しいかな本作は登場人物の言動が「癖が強いのにキャラは立ってない」と非常に没入感を妨げる代物になっており、この結果冒険活劇的な爽快感は無きに等しい。
スチームボールを巡り袂を分かったが主張と行動がいまいち噛み合わないロイドとエディ、物分かり良さげに振る舞いつつ一方的な行動を推し進めるロバート博士と助手デイビッド、立ち位置はヒロインだがあまりに言動が傲岸なスカーレットに、結局主人公として「科学の未来」を明白に示すことなくあちこちの陣営に近寄っては場当たりに事態対処するだけのジェームス。
これらの好感を抱きづらい登場人物がいまいち感情を声に乗せずにめいめい主張を垂れ流すものだから、物語は視聴者の右耳から左耳へ感慨なく通り抜けていくばかりである。
エンディングロールを見る限り本作は明らかに描きたかった部分を描き切れていない節があるが、
それが「この作品って何かの前日譚なんだっけ」と見えてくるレベルにストーリー自体は曖昧かつ単体の魅力に乏しい。
確固たるのは蒸気吹き上げ歯車を嚙み合わせ蠢く機械装置だけであり、そこに魅力を見出せるかどうかがこの映画への印象を左右するだろう。筆者としてはそれだけでは物足りないと思うが。