「禁忌を破る衝撃」オールド・ボーイ(2003) garuさんの映画レビュー(感想・評価)
禁忌を破る衝撃
私は、30過ぎまで韓国にクリスチャンが多いことを知らなかった。 日本におけるクリスチャンの割合が1%にも満たないのに対し、韓国は総人口の3割もいるそうだ。 この映画を観た時は、すでにその事実を知っていたが、 知らずに観ていたら少し違う印象を持ったかもしれない。
近親相姦は、宗教とは関係なくどの国でもどの人種でも厳しくタブー視される。 動物としての本能的な忌避感もあるし、社会がタブーとして強く規定するからだ。 近親相姦のタブーが容易に破られるのは、 社会性の及ばない孤立した共同体の中(昔の公家社会など)だけらしい。
ひと昔前まで夜這い文化があり、親が子供の性的な面倒を見ることもあった共同体社会の日本と違い(夜這いの民俗学・赤松啓介)、 個人主義で宗教的な善悪が明確なキリスト教圏では、禁忌破りに対する背徳感や罪悪感が想像以上に強いと思われる。
キリスト教圏の人たちがこの作品から受けた衝撃度は、 我々日本人が想像するよりもずっと大きかったに違いない。 日本人の私にとってももちろん衝撃的だが、それでも作品中の表現が少し大げさに感じる部分はあった。 クリスチャンの方々からすれば、 「まさにその表現」だったのだろう。
主人公が怒涛の勢いで真実に突き進んで行く過程が、まず目を見張るほどに面白い。 その力強いストーリー進行が、 なおさらクライマックスの衝撃度を高め、 観客を一瞬にして沈黙させる。 サスペンスとしてもエンターテイメントとしても秀逸で、 数々の国際映画祭で賞を獲得しているパク・チャヌク監督の演出が冴えわたる。 カンヌでグランプリを受賞したのは、納得の出来だ。