ギター弾きの恋 : 映画評論・批評
2001年3月1日更新
2001年3月17日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
ジャズ愛に溢れたアレン流高純度ラブストーリー
前作「セレブリティ」で「甘い生活」をアレンジしたウディ・アレン30本目の監督作は、またしてもフェリーニ映画の、「道」の巧みなコメディへの焼き直しともとれる。
主人公はジャズ創世期30年代シカゴで活躍した“ジャンゴ・ラインハルト(天才ギタリスト)の次にうまい”と豪語するギター弾き、エメット・レイ(ショーン・ペン)。ギターの腕は超一流だが、実生活は万事にだらしないハチャメチャな男だ。恋もからっきしダメ。そんな男の目の前に純情を絵に描いたような女性(サマンサ・モートン)が現れ、映画は笑いと涙モードにだんだん拍車がかかる!
彼女はなんと“口がきけない”のだ。モートン(「Jesus's Sun」もすごかった)のマイム(喋らない)演技は、「道」のジェルソミーナのように“饒舌”だ。だからラスト、ショーン・ペンが「道」のザンパーノ同様の“不覚”の想いに悲嘆する時、深い悲しみが胸を打つ。あああああ、人生ってホロ苦い。
驚くのはアレンの話術だ。何しろ主人公は創造の人物でしかなく、アレン本人やジャ ズ評論家ナット・ヘントフ(「ジャズ・カントリー」の著者)らのコメントにより、もっともらしく彼の破天荒な人生が語られるのだから、芸が細かい。アレン好みの軽やかなジプシージャズが、語り口をさらに輝かせている。
(サトウムツオ)