リンダ リンダ リンダ : 映画評論・批評
2005年7月26日更新
2005年7月23日よりシネセゾン渋谷ほかにてロードショー
もうひとつの不思議の国のアリス
文化祭前日なのに空中分解寸前の危機にあった女子高校生バンド。この際、時間もないのでブルーハーツのコピーを即席でやろう、ということになり、“ボーカルやらない?”とたまたまその場に通りかかかった韓国からの留学生ソンを強引にスカウトして、いざ、本番に向けて徹夜練習の日々が続く……。
バンド仲間と出会うまで少し寂しげだった少女ソンを演じるペ・ドゥナは、この素晴らしい映画のなかで「不思議の国のアリス」のような存在になる。あまり日本語を話せない上、生活習慣や文化も微妙に異なる場所にいきなり迷い込んでしまった存在。だけどアリス同様、ソンは日本という不思議の国に対して好奇心旺盛だし、自ら進んでそこでの冒険を楽しもうとする。むろん、そうしたソンの置かれた状況は、日本映画初主演となる本作の撮影現場でのドゥナ自身のそれと明らかに重なりあい、彼女のキャスティングが山下敦弘監督に圧倒的勝利を呼び込ぶ。不思議の国のアリスとの出会いによって他のバンドメンバーや撮影スタッフも不思議と活気づけられ、クライマックスのライブシーンへ突き進むのだ……。
蛇足ながら、ブルーハーツが好きになれない僕にとって、ライブでその前に演奏された奥田民生やはっぴいえんどの曲が思いがけない悦びだったと付け加えておこう。
(北小路隆志)