「中国への香港返還の直後に製作されたことが、今振り返ると感慨深い一作」花様年華 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
中国への香港返還の直後に製作されたことが、今振り返ると感慨深い一作
最近は新作の情報がなかなか入ってこないウォン・カーウァイ監督ですが、過去作のレストア版の公開など、再評価の動きは活発です。
本作は、カーウァイ監督だけでなく、多くの若手香港映画俳優の知名度を飛躍的に高めた、『欲望の翼』(1990)の世界観を引き継ぎつつ、赤を基調とした独自の映像美が強烈な印象を残す一作です。
寂れた建物や安っぽい日用品があふれているにも関わらず、それら一つ一つが輝くパーツのようにはめ込まれた映像の美しさは、レストアの効果なのかどうか、今見ても驚嘆するほど。
物語の舞台は1960年代の香港なんだけど、本作の製作は2000年、つまり香港返還の直後です。そのため本作が描く香港は、『欲望の翼』以上に、かつて誇った栄華が虚しく消え去る前の残光のような哀愁を漂わせています。
お互いの配偶者には裏切られているチャウ(レスリー・チャン)とチャン夫人(マギー・チャン)は、互いに惹かれあっているものの、潔白な関係を維持している……のですが、それをことあるごとにセリフで強調するところにむしろ興味を持ちました。時代設定を1960年代にしていることといい、もしかしたら検閲対策なのかも?と。
といっても、同じくカーウァイ監督が手掛けた、やや本作と似た物語上の要素を持った『若き仕立て屋の恋』(2004)が結構露骨な描写も含んでいるんで、単に監督がテーマに沿って描き分けしただけかも!
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