ハウルの動く城 : 映画評論・批評
2004年11月15日更新
2004年11月20日より日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系にてロードショー
美しき妄想力と老人力があふれる宮崎の“アフター9・11”
映画は気力と体力と妄想力である。特に妄想力。この力で映画の面白さは決まる。宮崎駿は大いなる妄想力の持ち主だ。その最たるものが妄想力全開の「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」である。が、2作品とも妄想力に比例にしてメッセージ性も強くなっていて、少々、居心地の悪いものがあった。「ハウル~」も正直、不安はあった。また説教されるんじゃないか!? でもそれは杞憂に終わった。
「ハウル~」はたまらなくキュートでつつましくて、それでいて生命力にあふれた物語だった。そう、これは宮崎版「オズの魔法使い」なのだ。90歳の老婆に変えられた少女も本当は臆病な魔法使いも火の小悪魔もカブ頭のカカシも、みな本当の自分を、自分の居場所を探している。彼らは動く城に集い、小さな家族をつくる。それぞれの魔法を解くのはかけがえのない人からのキスとぬくもり。「おうちがいちばん」とドロシーはいったが、ハウルの城の住人たちはこういうだろう。「家族がいちばん」。
宮崎の立ち位置はいつもよりずっと後ろにある。「戦争」を背景に描きながらも、前に出過ぎず、メッセージを叫ばず。けれども物語のなんと豊かで多弁なことか。宮崎の“アフター9・11”には美しき妄想力と老人力があふれている。
(三留まゆみ)