劇場公開日 2005年11月19日

大停電の夜に : 映画評論・批評

2005年11月15日更新

2005年11月19日より丸の内ピカデリー2ほか全国松竹・東急系にてロードショー

美しく繊細な撮影で描く、抑制の効いた群像劇

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往年の古き良き洒脱なハリウッド・エンターテインメントを志向しても、日本映画は垢抜けないものだったが、この映画の中の東京は、猥雑なイメージが捨象され、実にきらびやかな幻想都市として映し出される。これは俳優たちの魅力がきらめくウェルメイドな群像劇だ。主人公は老人から少年まで12人。不倫、秘密、告白、出産、謝罪、赦し……。大都会の片隅に住む彼らは皆、一様に心に痛みを抱え不安に打ち震えながら、ささやかな幸せを求めている。

きっかけはイブの夜の大停電。まばゆい街が暗転し、柔らかな蝋燭の炎で人々が浮かび上がる非日常は、それぞれの“つかえ”を少しずつ和らげていく。あえてベスト演技を挙げるなら、淡島千景、原田知世、田畑智子。もどかしく、あるいはこんがらがった愛のベクトルのゆくえをめぐる逡巡の中、人工衛星マニアの天文少年と癌を患った少女の出会いのエピソードは、広がりをもたらす。「ラブ・アクチュアリー」ほどセンチメンタルでなく、「マグノリア」ほどトラウマティックではない。臭すぎる話になる危険性を、美しく繊細な撮影と、劇的演出に寸止めをかけた技巧によって回避し、温かい眼差しで彼らを包み込むことに成功している。

清水節

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