ブロークン・フラワーズ : 映画評論・批評
2006年4月25日更新
2006年4月29日よりシネマライズほかにてロードショー
スカした感覚がただの黄昏オヤジ譚と一線を画す
永遠のパンクスというイメージの抜けないジャームッシュも53歳。いまやどんづまり中年やらせたら当代随一のビル・マーレイと3つしか違わないというのは、インディーズ時代から見続けてきた者としてちょっとしたショックだ。そのマーレイを主演に迎えた本作、人生の折り返し地点を過ぎてしまった男ならではの新しい展開を予感させる傑作である。
冒頭に“ジャン・ユスターシュに捧ぐ”と出るけれど、それを言うならデュビビエだろ、とツっこみたくなるくらいに「舞踏会の手帖」のおっさん版的なハナシ。つまり老いた女たらしドン・ジョンソン……ならぬドン・ジョンストン(作中でも繰り返されるギャグ)が「自分の息子を産んだかも知れない昔の女」を訊ねて回る、って筋なのだが、その“女たち”がけっこう豪華。しかも大した役でもない女性までがセクシー美女ぞろい。悟りきれないオヤジの妄想そのものだけど、ラストはジャームッシュの成熟……というか、齡に見合った諦観を感じさせて軽くしみじみ。
実はこの映画最大のポイントは、主人公の旅のお供となるエチオピアン・ジャズ!その四七抜き音階はほとんど演歌、これほどアメリカの風景に合わない音はない。こうした持ち前のスカした感覚が、ただの黄昏オヤジ譚と一線を画すところなのだ。
(ミルクマン斉藤)