ビヨンド the シー 夢見るように歌えば : 映画評論・批評
2005年2月15日更新
2005年2月26日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー
ミュージカルシーンの本気度が映画に光明を与える
「マック・ザ・ナイフ」や「ビヨンド・ザ・シー」(シャルル・トレネの名曲「ラ・メール」の英語版)で有名な、37歳で夭折した人気歌手ボビー・ダーリンの伝記的ミュージカル。「伝記的」と書いたのは、虚構がないまぜになったドラマになっているからで、のちにボビー・ダーリンになる病弱な少年と、死に直面しかけたボビー(ケビン・スペイシー)が対話しながら、劇中、ボビー・ダーリンの伝記映画を作っていくという趣向に、ボブ・フォッシーの「オール・ザット・ジャズ」的要素が加味されている点が興味深い。
「真夜中のサバナ」でも圧倒的歌唱を聴かせたケビン・スペイシー(製作、監督、脚本、主演)のもはや独り舞台! 「あてぶり」でなく、ボビー・ダーリンの「ものまね」に徹し、表題曲をはじめとするプロダクションナンバーを熱くシング&ダンスしていて、魅せる。物語としては不治の病との闘い、(「グリース」のピンクレディースの憧れだった)人気女優サンドラ・ディーとのロマンス……お涙頂戴式の凡庸な人生なのだが、ミュージカルシーンの本気度が映画に光明を与える。
ただ、スペイシーの至芸はボビー・ダーリンを「演じて」いるだけで、「Ray/レイ」のレイ・チャールズの人生を生きたジェイミー・フォックスに比べると、魂に響いてこない。ファンタジーとして見るべきミュージカルだろう。
(サトウムツオ)