「ヤッたの? ヤッてないの?」アメリカン・サイコ ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
ヤッたの? ヤッてないの?
面白いとは聞いていたものの、先延ばしにしていて、Netflixの配信が終わるタイミングに鑑賞。そしてまた4年の時を経て戻ってきたので見なおした。
あーおもしろかった!
し、めちゃウケる。
こんなにウケたのは「未来世紀ブラジル」を観たとき以来かも。
ウォールストリートに生きるヤンエグたちの暮らしを当時のカルチャーとともに描くブラックコメディ。
オリバー・ストーンの「ウォール街」ではまだ食うか食われるかの騙し合いが描かれていたが、本作では仕事をしている形跡そのものがない。
なんせ親の名前で職についてるだけだし、形式的に出社はするけど、頭にあるのは自分の見てくれと名刺と予約したレストランのことだけ。
他人の目から見て自分がイケてるか、イケてないか、ただそれだけ。
まだトランプの方が仕事してるだろう、これ……
そのマウンティング合戦はほんとトレーディングカードとか、メンコの強さを競う小5男子と変わらないノリ。名刺比べのシーンとかマジで意地わっるぅ。この景色、見たことあるなっていうバチバチの既視感。
白人・男性・金持ちのみが参入できる戯れ。
町山智浩の評論本にも取り上げられていたけど、まあこういう人々はバブル期の日本にも実在したとか。
ただ、彼らに「好きなものがない」というのはどうだろう?
空虚さを自覚するゆえに売れ筋のポップソングに過剰に移入する主人公は、「好き」とは言えないのだろうか。
あと殺人はほとんどビョーキ。精神のバランスを保つための。
そして彼には友達も恋人もいない。唯一、音楽を語り合えそうな人は最もノーサンキューな探偵のおじさん(ウィレム・デフォー)。
ラスト、若きエリートなのにシリアルキラーという矛盾した個性を持つ主人公は、その実績そのものを無視されて終わる。だって「誰も中身は見ない」から。人種や肩書き、身なりや髪型でしか判断されない。どんなに特殊性癖を持ってても、外見とミスマッチと思われたら最後、それらは無化される。
主人公はそれを誰よりもわかってたはずなのに。。
洗練されただけのマチズモは、もちろん肥大化したミソジニーと背中合わせ。それは男自身をもぜんぜん幸せにせず、ひたすら虚しくさせるだけ。
これと「ブラック・レイン」をセットで観ると、80年代のアメリカの閉塞感をリアルに感じられると思う。その後、日本の方が先にへし折れたけど……
なんとなくこれ「ファイト・クラブ」の前日譚だなーっていう感触がすごいした。
