劇場公開日 2006年2月18日

ウォーク・ザ・ライン　君につづく道 : 特集

2006年2月13日更新

本年度のゴールデン・グローブ賞ミュージカル／コメディ部門で作品賞を獲得し、アカデミー賞でも主演男優賞、主演女優賞ほか5部門にノミネートされてる「ウォーク・ザ・ライン／君につづく道」。本作は、アメリカの伝説的ミュージシャン、ジョニー・キャッシュ（1932～2003）の半生と、そのパートナー、ジューンとの愛の軌跡を描いた物語だ。しかし、日本人にはなじみの薄いジョニー・キャッシュとは、果たしてどのような人物なのか？（文・構成：赤尾美香）

Who is Johnny Cash？

♪ジョニー・キャッシュというカリスマ

「はじめて『アイ・ウォーク・ザ・ライン』を聴いたときには、神様が＜おまえはそこで一体何をしている？＞と語りかけて来たように感じた。だから私も眼を大きく開けているようにした」と自伝に記したボブ・ディランはまた、「1万年にも値する文化が彼から溢れ出る」とジョニー・キャッシュ（以下JC）を評した。「JCの前ではすべての男が軟弱にみえる」と言ったボノ（U2）。ジョー・ストラマー（元ザ・クラッシュ）は「永遠のヒーロー」と崇め、カート・コバーン（ニルヴァーナ）は「JCのようなシンガー・ソングライターとして評価されたい」と願った。「ギターをすごく低い位置でかき鳴らす姿がいかしてたね」というキース・リチャーズ（ローリング・ストーンズ）のコメントもまた、いかしてる。コールドプレイの最新作「X＆Y」に収録された「キングダム・カム」はJCに捧げられた曲である……等々、賛辞の声は途絶えない。JCと言えばカントリーというイメージが強いが、ロカビリー、ブルース、フォーク、ロックンロールの草創期から現在――彼の死後もなお――に至るまでマンモス級の影響力を与え続けているアーティストなのだ。

1932年アーカンソー州キングスランドに生まれたJCは、エルビス・プレスリーの成功に触発され、エルビスと同じサン・レコードのオーディションを受けて歌手デビューを果たす。ヒット曲と共に人気を高めていった彼は、エルビス、カール・パーキンス、ロイ・オービソンらと50年代半ばから60年代かけてのシーンを華やかに盛り上げた。60年代末には、自身のTV番組「The Johnny Cash Show」を持ったことで、お茶の間にも進出。

90年代以降は鬼才リック・ルービン・プロデュースの下、グランジ／オルタナ・ロックの若手と共演したり、彼らの曲をカバーしたりと挑戦を続け、そのすべてが高く評価された。とりわけ、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーが書いた「ハート」のカバーとそのPVは秀逸で、02年当時、薬物依存の問題を抱え第一線への復帰が遅れていたトレント自身が、そのPVを観て涙し背中を押されたというのは有名な話。

いつも黒服に身を包み（着用のきっかけは映画の中に！）、眼光鋭く、ドスの効いたバリトン・ボイスを聴かせ、強烈なオーラを放ったJC。歌の中で彼は殺人者にもなれば、敬虔な神の子にもなった。そこに矛盾はなく、どちらもジョニー・キャッシュ、その人であった。JCが、03年に71歳でこの世を去るまでの間、全米チャートに送り込んだシングルは130曲以上。グラミー受賞は11回、カントリーとロックンロール、ふたつのホール・オブ・フェイム（殿堂）に迎えられた最初のアーティストでもある。