トラフィック(2000) : 映画評論・批評
2001年4月16日更新
2001年4月28日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にてロードショー
初の群像劇でオスカー受賞。ソダーバーグの底力を見よ
スケールの大きさ、緻密な構成、映像のキレや臨場感など、実に素晴らしい作品である。初期の頃とは違い、娯楽作品もこなせるということで大きな注目を集めるソダーバーグだが、最近の監督作のなかで、この映画は彼に最も相応しい題材を提供していると思う。
ソダーバーグは、ドラマの背景や空間、現在と回想などによって映像の色調や感触を変え、コントラストを作るのを好む。この映画には、まずメキシコとアメリカという境界があり、さらにアメリカのなかで、ふたつの家族が、経済的には同じように裕福でありながら、麻薬取引をめぐって対照的な立場にある。ソダーバーグは映画の軸となるこの三つの物語を、異なる色調で描き分けている。
彼がコントラストにこだわるのは、本来は、意思と同様に人を動かす記憶や状況の力を描き出そうとするからだが、この映画にはその狙いがはっきりと出ている。麻薬取締連邦最高責任者も、夫の仕事すら知らなかった麻薬王の妻も、現実の非情さを知るメキシコの州警察官も、意思とは異なる力に動かされ、一線を越えていく。それを善悪の基準や劇的な要素にとらわれることなく、同じ距離で見つめているところが、何ともこの監督らしい。
(大場正明)