TAKESHIS' : インタビュー
北野武監督インタビュー
※前のページから続く
──この映画では、ほとんどのキャストが何人もの役を演じていますが、演じたキャスト陣はどういう気持ちで撮影に臨んでいたのでしょうか?
「この映画は、色々うるさく質問されることのないように、今まで自分の映画で使ってきた常連の俳優を使ったよ(笑)。大杉(漣)さんなんか、何ひとつ聞いてこなかった。(岸本)加世子さんは、いまだに『私、何の役をやったんだろう?』って言ってるからね。みんな、わけわかんないまま撮影してたんだ(笑)」
──今回の作品は非常に衝撃的でもあるのですが、北野監督に衝撃を与えた映画はどんな映画なのでしょう?
「ここんとこ、映画をよく観てるんだよ。ほんと最近に限った話だけど(笑)。ヒッチコックの全作品だろ、フェリーニの『魂のジュリエッタ』『青春群像』、ゴダールの『軽蔑』『気狂いピエロ』に『女は女である』あたりかな。『気狂いピエロ』は2回観たんだけど、ストーリーを追うのはあきらめた(笑)。スジで映画が出来ているのではなくて、色なんかの視覚で繋がっていくだけなんだから。『軽蔑』もそうなんだけど、スジとしてはウダウダやってるだけで、『なんだ、これは?』と思っていたら、ラストでドンとやられたね。ストーリーを知らされていなかったから、衝撃的だったよ。あと『フェリーニ 大いなる嘘つき』は面白かった。基本的に彼はウソをついているんだけど、たまに本当のことを言うんだよね。そんで、それがオレの意見と一致しているんだ。ある質問に対して返答する答えが、オレがつくウソと同じなんだよ(笑)」
──「映画に飽きた」ということはあるのでしょうか?
「映画に飽きたというか、『この映画のお客さんはどんなこと考えて観てるんだろう?』っていうのはあるね。この前、キアヌ・リーブスとキャメロン・ディアスの『フィーリング・ミネソタ』っていうのを借りて観たんだけど『なんだ、これ!?』ってくらいに酷かったな(笑)。もう滅茶苦茶で、あの辻褄の合わなさといったらないよ。ビデオジャケットの裏ではすごい褒めているけど、あんなの全部ウソ(笑)。久々にあんな映画を観たね。で、この『フィーリング・ミネソタ』を(教授を務めている東京芸大の)教材にしようかなって思ってるんだよ(笑)」
──本作完成後の感想をお聞かせください。
「今回の映画の狙いは、『感想が言えない映画を作る』っていうことなんだよね。『この状況は何なんだ?』っていうこと。料理だと『美味い』『不味い』とか色々あるけど、この映画を観て『良かった』『悪かった』『感動した』とかの、いわゆる普通の意見は1つもなくて、唯一『金返せ』はあるかなと思ってるんだけど(笑)。ヨーロッパでは『金返せ』から『昔からのファンだけど、とにかく病院に行って下さい』(笑)なんかの意見の一方で『見事にぶち壊してくれた』『50年後に再評価されるだろう』っていうのもあったよ。まったく評価されないのも困るからね。
この映画の台本が上がって、撮り始めたときに、森さん(プロデューサー)が『TAKESHIS'』っていうタイトルはどうですか?って言ったときはドキッとしたよ。「たけし死す」って読めると思ってさ。撮影中に自分でも最後になるような気がしたからね。でも、今回の作品は妙なテンションなんだよ。すごく重苦しいの。自分で編集したからストーリーはしっかり分かっているはずなのに、見ててヘトヘトに疲れ果てた。で、これはどういうことかというと、スクリーンに映る2体の自分の操り人形を通して、自分の哀しく情けない姿を見せつけられたからなんだな。結局、この映画で何を描いたのかというと、画面に映っていない自分の姿なんだよ。『寂しいなあ』と思って、堪えたよね」
──そして、新たなパッケージに入る第13作にあたる新作については?
「小学生時代に教わった担任の先生がいて、彼は5年間オレの担任だったんだけどさ、20歳で赴任して来た新任の熱血漢で、エラい目に遭わされたんだよ(笑)。で、あの当時の彼の物語を撮っておくべきかなって思ってんだよ。まだ決まりというわけじゃないけどね。それで、それが撮り終わって、もし身体を壊してたりしたら、その映画が最後になるかもしれないなあ。まあ、生きてりゃ、あと何本かやるんだろうけどさ」
インタビュー