TAKESHIS' : 映画評論・批評
2005年11月1日更新
2005年11月5日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にてロードショー
この「脱構築」の手法は天才の所業だろう
ワーキングタイトルが、数学の「次元分裂図形」、アートの「反復されるパターン」を意味する「フラクタル(Fractal)」。題名が「たけしの複数形(の所有格)」なのはタイプミスではなく、人間が反復されて、たくさんの北野武(ビートたけし)が、岸本加世子、大杉漣らが登場する。人物の同じ造形パターンを借りて、エージェント・スミス同様に、「シミュラクル」の個性を楽しんでいるかのように、まさしく外見だけが同じの分身同士が出会うおかしみにあふれていて、俳優北野武は自在に遊んでいる。
随所に「HANA-BI」「みんな~やってるか!」などの名場面を引用し、やすやすと自分の作品の世界観を解体し、新しい可能性を模索しているのがすごい。この「脱構築」の手法は天才の所業だろう。また、監督北野武の多重人格的な脳内イメージをのぞく楽しみもあり、脚本家チャーリー・カウフマン(「マルコヴィッチの穴」)も真っ青な、奇抜なストーリーテリングにはただただ脱帽するばかりだ。
気になったのがひとつ。拳銃をおもちゃのように扱うシーンを頻繁に登場させたのは少し残念に思った。「3-4×10月」の金属バットのように、もっと日常的な道具で恐怖やスリルからかもし出される笑いを演出できる映画作家だけに、その場面だけは笑いがのど元でつっかえてしまった。
(サトウムツオ)