シリアナ : インタビュー
麻薬を通してアメリカ政府の腐敗を暴き、アカデミー賞4部門に輝いた「トラフィック」(00)の脚本家スティーブン・ギャガンが、今度は石油を通して、中東とアメリカの関係、そして地球規模の陰謀を暴いた「シリアナ」。本作の公開を前に来日したギャガン監督に話を聞いた。(聞き手:編集部)
スティーブン・ギャガン監督インタビュー
「日本など海外の観客の反応を見届けたいですね」
――今まさに観ておくべき非常に現代的な題材を扱っていますが、オイルメジャー、CIA、そして観客の反応はいかがでしたか?
「まずCIAはとても興奮して『正にこの通り!正確だ!』という反応だったね。次に石油業界は非常にポジティブで、確かに政治を腐敗させるのはお金である、といった反応で、今朝もまさにこの通りだ、という反応のメールが届いたんだ。アメリカの一般客700~800万人の反応は、それぞれに違っていて、アメリカを批判的にみている部分に関しては、やはり良い反応ではなかったよ。私としては、日本など海外の観客の反応を見届けたいね」
――原作者のベア氏に教えられて、シナリオのリサーチのために南フランスを訪れたそうですが。
「王族、銃器の取り扱いグループのリーダーであったり、南フランスでかなり大きな船を所有しているテロリスト等、中東在住の様々な人物に会いました。イタリアではサウジアラビア在住のエクソン・モービルのセキュリティーの他、マネーロンダリングをしている人間に会ったよ。そんなリサーチの中で、一番驚いたのが、ジュネーブで自家用ジェット機を持っているテロリストが、彼の息子に『元CIA局長のうちの、何人に対して、我々が給料を払っているんだ?』と聞くと、彼の息子はニヤリと『6人いる』と話したことだね。これは本当にびっくりした。まあ、リサーチしたのは南フランスだけではなくて、その後もベイルート、シリア、ペルシア湾岸各国、ワシントンD.C.、ニューヨーク、ロンドンを行き来したんだよ」
――本作を製作したことで生命の危険を感じたことはありますか?
「ロバート・ベアが80年代にヒズボラに潜入するために滞在していたベイルートに取材で行ったとき、ベアの友達の友達という人からの電話で、『とにかく、すぐ車に乗ってくれ』と言われたので、仕方なく来た車に乗ったんだ。すると車は急に走り出して、しばらくすると銃を持った人間たちに囲まれてしまった。バッグパック、ノートブック、ベルト、靴などの所持品はすべて奪われ、目隠しをされて再び車に乗せられたんだ。空港に降り立った途端の出来事だったけど、とにかく、いまこの自分の身に起こっていることは絶対覚えていようと思ったんだ。後から分かったことだけど、これはヒズボラのリーダーに会うためのセキュリティチェックだったんだ。95年にCIAによるヒズボラのリーダーの暗殺計画があって、その時に爆破でヒズボラの人間は80人殺されているという事実があるから、彼らが、ここまでやるのには正当な理由があるんだよ」
そんな危険な目に遭いながらも本作を完成させたギャガン監督の次回作は「ティッピング・ポイント」など知られるマルコム・グラッドウェルのベストセラーノンフィクション「Blink: The Power of Thinking Without Thinking」。主演はレオナルド・ディカプリオだ。ギリシャ古代彫刻、アスリート、人種差別、軍事関連についての事例を挙げながら人間の無意識の判断、直感の力の重要性を訴える内容で、どのようにシナリオにするのかをハリウッドが固唾を飲んで見守っている一作。「(シナリオにするのは)本当に難しい(笑)」と語るギャガン監督だが、「トラフィック」そして、本作と、ハードな題材をモノにしてきた辣腕だけに次回作にも期待がかかる。