「人生は本当に素晴らしいのか」海を飛ぶ夢 きのこの日さんの映画レビュー(感想・評価)
人生は本当に素晴らしいのか
ものすごく考えさせられる作品でした。
実話をもとに作られた物語。
ハビエル・バルデムが、自分の年齢よりも20歳以上も上のラモンという主人公を演じていて、素晴らしい。
首から上しか動かせない役なのに、目で、顔で、言葉で、すべてで演じてた。
ラモンに惹かれていく二人の女性。なぜか人を引き寄せる不思議な魅力をもっている男性をみごとに演じてた。
そして、ロサっていう女性がなんていうか、女子から見てて腹立つ女で。
すごく甘えてて、感情的で自分勝手で。自分の気持ちを人に押し付ける。
でも、人間てそんなもんなのかもしれないけど。彼女も自分のいる場所とかそういうことに満足をしていなくて、ラモンという「かわいそうな」人に尽くす自分に満足したかったのかもしれない。
結局人生なんて自己満足だ。
なんか、人生ってなんなんだろうと思った。
わたしの友達に、「人生は素晴らしい」っていう言葉が好きだっていう友達がいて、
その人が好きな「人生は素晴らしい」って言葉は、「Life is beautiful」とは少し違うらしい。
その人が言わんとするところはものすごくよく分かる。
なんやかんや人生は素晴らしいってことなんだと思う。
人生は輝いてるとか生きてること自体が愛おしいとかそういうたぐいのニュアンスなんだろうと思う。
だけど、どんな人の人生も本当に素晴らしいのかな。
彼の人生は素晴らしかったのかな。
私の人生は素晴らしいのかな。
そんな思いが、止まらなくなる、苦しい映画だった。
今回はものすごく印象的なシーンが多かった。
しかしながら人生を特に考えさせられることになったところから2つ。
1.なぜ皆のように自分の人生に満足できない
フリアとともに死ぬ約束をしたラモン。
本が出版される日と決め、彼はその日を夢見ていた。
しかしその日、彼女は来なかった。
その夜に、取り乱したラモンが発した言葉。
なぜ皆のように自分の人生に満足できない
彼が尊厳死を口にするようになってから、たくさんの人が彼に生を説いた。
同じように体が不自由な牧師が、彼に説教もした。
そして分かり合ったはずの女性も、死ぬことを選んではくれなかった。
すごく、つらかった。
私も思う。世の中の人はみな、人生に満足しているように見える。
そりゃ、見えないところでいろんな苦労があったりするんだと思う。
だけど、自分の人生が何か違うと思い、自らの手でその人生を断つことを思うほどに、
自分の人生に満足できないひとは果たしてどれくらいいるんだろう。
わたしという人間の人生を他の人が生きたらそこそこ満足するのかもしれない。
だけどわたしはいつも思ってしまう、なんか違う、なんか違うと。
人間は、生きる意味を探してしまう。だから人生は素晴らしくもなるし、素晴らしいと思えない自分を苦しめることにもなる。
2.甥のハビが、死へと向かうラモンの車をただただ追いかけるシーン
ラモンは結構甥のハビにつらくあたったり、横柄な態度をとったりする。
だけど、ラモンがロサと共に行くことを決めたとき、彼が乗った車をハビがただただ追いかける。
映像が美しくて、切なくて、
理由なんかない。ただ、悲しい。追いかけたい。
そんな思いがあふれているシーン。
どんなに本人が死を望んでも、人は、人が死ぬのは好きじゃない。
いさかいがあったとしても、本人が生きていることを拒んでいたとしても、
でも悲しい。行かないでほしい。
涙が止まらなくて止まらなくて。
他にも胸に突き刺さるセリフがたくさん出てくる。
お兄さんとか世話をしてるマヌエラさんの想いとか、たまらない。
色んな人の言葉をかみしめてみて頂きたい作品です。