「本当のテーマは黒人公民権運動への応援歌」恋人よ帰れ!わが胸に あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
本当のテーマは黒人公民権運動への応援歌
邦題名は内容にそぐわないかもしれない
かと言って原題のフォーチュンクッキーではもっとわからない
保険金詐欺のお話のようで、本当のテーマは黒人公民権運動への応援歌をコメディで観せることであった
ビリー・ワイルダー監督お得意のコメディタッチ
ジャック・レモン、ウォルター・マッソーが正に演技というか演芸の域で笑わしてくれる
終盤まではウォルター・マッソーの方が素晴らしく、ジャック・レモンは車椅子に縛られている役のようにいまいちな感じ
しかし、終盤で一気に爆発する
ラストシーンの深夜のスタジアムでの二人だけの試合は最高の終わり方であった
詐欺の片棒を担いで共犯になったような観客のモヤモヤ感を、彼の笑顔が吹き飛ばしカタルシスを持って映画を締めくくっている
ビリー・ワイルダー監督の見事な腕だ
1966年は黒人の公民権運動が全米を揺るがしていた時代であり、その最中に本作は製作されたのだ
ジャック・レモンが私立探偵の黒人差別発言のわざとらしい挑発に我慢できず殴り倒してしまうシーン
そして詐欺事件の犠牲となったフットボールの黒人スター選手との和解シーン
これこそが本作のテーマだったのだ
当然白人だけでなく黒人達も映画館に詰めかけて喝采を送ったことだろう
単なる時節問題としてでなく、人権、モラル、良心の問題として、それをコメディの衣で見事に娯楽作品としてまとめ上げている
正にプロの仕事だ
別れた尻軽の美人妻の話なぞ、それこそ刺身のつまでしかない
第一、元妻であって恋人ではない
その上、主人公は終盤で落ちたコンタクトレンズを探して床に這いつくばる元妻の尻を軽く蹴飛ばして去ってしまうのだ
ひょっとしたら邦題の「恋人よ帰れ!我が胸に」というその恋人の意味は、実は「良心」というという意味として日本の配給会社の宣伝マンがそこまで考えて付けたものなのかもしれない
だとしたら昔の人は本当に凄い人がいたと感嘆するほかない
ジェミニ計画とは、月着陸アポロ計画の前段階の計画、有人宇宙飛行ジェミニ計画からとられたもの
だから、悪徳弁護士がジェミニ計画司令部に連絡しろと私立探偵二人に呼び掛けるのはそういうこと
もちろんジェミニとは双子の意味で、探偵二人が交代の不眠不休で監視するということにかけてある