マイノリティ・リポート : 特集
スピルバーグとトム・クルーズが初顔合わせ、VFXたっぷりの近未来アクション、原作はフィリップ・K・ディック──これだけでも文句なしの正月映画の話題作だが、実はこの映画にはいろんな「隠し味」がある。製作経緯から生まれた「隠し味」と、スピルバーグが仕込んだ「隠し味」、2種の隠れコマンドがコレだ。
パート1:脚本家3人が各自の「テイスト」を仕込んだ?
編集部
ミステリー仕立てで、小道具続々、ブラックなギャグや、ちょっと歪んだサブ・キャラたちも登場。これまでのスピルバーグ作品とは少々テイストが異なるこれらの要素は、ひょっとしたら、映画化までに関わった複数の脚本家たちの置きみやげかもしれない。そこで、本作が出来上がるまでの経緯と、関わった脚本家たちの意見をチェックしてみよう。
そもそもこの作品の出発点は、同じ原作者フィリップ・K・ディックの別の短編を映画化したポール・バーホーベン監督「トータル・リコール」(90)の直後に立ち上がった企画。この映画の脚本家、ゲイリー・ゴールドマンとロナルド・シャセットが「マイノリティ・リポート」の映画化脚本を執筆、バーホーベンに持ち込み、「トータル・リコール」の製作会社カロルコがこれを買う。が、カロルコは95年に倒産。バーホーベンは「ショウガール」を監督するため、この企画から去る。
そこでゴールドマンはこれを「スピード」(94)を撮り終えたばかりのヤン・デ・ボン監督に売り込み、この映画の製作会社20世紀フォックスが買う。ここでゴールドマンとシャセットは2回ドラフトを書き直し、スタジオはそれを脚本家ジョン・コーエンにリライトさせる。
フォックスがこの脚本をトム・クルーズに送ると、この企画に興味をもった彼は、かねて組みたかったスピルバーグに声をかける。スピルバーグは乗り気になり、脚本家スコット・フランクにリライトさせる。こうして出来たのが本作の脚本なのだ(映画のクレジットでは「脚本」にはコーエンとフランクの名を記載。最初に脚本を書いた2人は「製作」として名前が載っている)。
そこで、脚本家たちの発言を見てみると、彼らが本作にそれぞれ異なる要素を持ち込んだことが見えてくる。
まず、最初に脚本を書いたゴールドマンは、原作者のファン。「ディックの感覚にはとても共感するんだ。彼のユーモアのセンスにも、彼の登場人物たちがいつもあらゆるものを疑ってしまうところにもね」。彼が書いた要素のいくつかは映画に残っていると彼は言う。
次に参加したコーエンは、ディックの名前も知らなかった。「雇われて初めて原作を読んで、とても心理的な小説だと思ったけど、僕が惹かれたのはギミック=小道具や仕掛けだ。それで中心人物とギミックは残して、無実の男が逃亡する、という話に単純化したんだ」。
最後に参加したフランクはスティーブン・ソダーバーグ監督の「アウト・オブ・サイト」(98)でエルモア・レナードの小説を脚本化、アカデミー賞脚色賞にノミネートの俊英。「告白すると僕はSFファンじゃなくて『デューン/砂の惑星』も読んだことがない。スティーブン(・スピルバーグ)に呼ばれて『フレンチ・コネクション』をいっしょに見て、こういう映画にしたいと言われたんだ。原作のコンセプトは興味深い。でもプロットも主人公も映画向きじゃないから、変えていったんだ」。
さて、出来上がった映画のどの部分がどの脚本家の仕業なのか? スクリーンでチェックしてみたい。