キング・コング : インタビュー
「ロード・オブ・ザ・リング」でゴラムを演じ、「キング・コング」では主人公コングを演じて、<演技>というものの意味を進化させたアンディ・サーキス。そんな映画史的重要人物なのにも関わらず、素顔の彼は取材部屋におじゃまするなり「ハーイ」と握手の手を差し出してくれる、とてもフレンドリーなお人柄。朝からの取材責めに疲れているに違いないのにも関わらず、質問にきっちり答えてくれた。(聞き手:編集部)
アンディ・サーキス インタビュー
「僕も初めて『キング・コング』を見たのは9歳だった」
キング・コングの演技はもちろん強烈だが、今回は彼が演じた船のコック、ランピーのキャラクターもかなり強烈。このキャラクターにはサーキスの意見がかなり反映されているそうだ。
「ピーターはとても協力的な監督で、俳優と一緒にキャラクターを作っていくのを楽しむんだ。だから、ランピーには僕の意見がかなり反映されているよ。僕が考えた彼の設定はこうだ。彼はコックなだけじゃなくて、タトゥー師で、床屋で、動物を生け捕りにしたときには獣医の役目もするし、彼らにエサをやるのも彼の役目だ。彼が片目をいつも半分閉じているのにも理由がある。彼はヘビースモーカーで、両手を使って料理をしている最中でも、口の端に加えて煙草を吸っていて、煙草の煙が目にしみるから、そっちの目を半分閉じてる。それを20年も続けているうちにいつも片目が半分閉じているようになってしまったんだ。彼は甲板で料理をしているけど、どんな材料でどんな料理を作るのかという点にも僕のアイデアを取り入れてくれたよ」
ピーター・ジャクソン監督が33年版の「キング・コング」を見たのは9歳だったが、サーキスが同作と見たのも、なんと同じ9歳だった。
「オリジナルの『キング・コング』を見たのは9歳のときだった。でも覚えていたのは、アンが生贄として捧げられるときの松明が燃えている光景とか、コングが森から出現するときの樹木が動く感じとか、断片的なイメージだけだよ。この役を演じることが決まったときに見直したんだけど、そのときは、"ピーターはどうしてこの映画をこんなにも好きになったんだろう"と考えながら見た。それと同時に、コングに感情移入して、彼の心理を追いながら見たよ。この映画のキング・コングは、僕の演技に直接役立ったわけじゃない。オリジナルのキング・コングは人間と獣の中間ような存在だけど、今回のキング・コングはもっとサルに近い存在だから。それに、今回のコングはオリジナル作よりももっと観客が感情移入できるように演出されている。オリジナルのコングからなにかを取り入れるというよりも、フレッシュなコング像を創り出すにはどうしたらいいかということのほうを意識したね」
ではリック・ベイカーが自ら着ぐるみで演じた76年版の「キング・コング」は見ていない?
「いや、76年に公開されたときには見たよ。たけど、そんなによく覚えていないんだ。船が石油発掘用のタンカーだったとか、船にコングが乗せられてた場面があったとかそのくらいで。今回の演技のために見直したりはしなかったな」
今回の映画には、キング・コングが氷の上を滑る魅力的な場面がある。これはアンディ・サーキスのアイデアが元だという噂も見かけたのだが。
「いや、正確には違う。でも、直接的に僕の意見だったわけではないけど、ある意味では僕のアイデアでもあるといえるかもしれない。もともとは、僕がモーション・キャプチャーのためのコングの演技をしているときに、コングが道路に積もった雪に滑ってしまうという演技をしたんだ。だって、タイムズ・スクエアの劇場から鎖を引きちぎって逃げ出したコングは、生まれて初めて見る雪にびっくりするはずだからね。コングが住んでいたスカル・アイランドは南国の島の生物で、コングはこれまで雪なんて体験したことがないんだから、滑ると思ったんだよ。そこで、コングがあちこち滑りながら人や自動車をなぎはらっていく、というのが僕のアイデアだったんだ。この意見は実現しなかったんだけど、コングが滑る、というアイデアを発展させて、あのロマンチックなあのシーンが生まれたんだ」
もちろん、このシーンはサーキスのお気に入りだ。
「とても観客に訴えかける力の強いシーンだと思う。人生はとてもはかないということも痛感させられる。アンとコングがいっしょにおだやかな時間をすごすのはあの時だけなのに、それはとても短いんだ。あの氷の上でアンとコングがいた世界はとてもおだやかで、破壊的な要素はなにもない。2人だけの特別な世界なんだ」