「真相は明らかになれど、疑問が残る主人公像。」キル・ビル Vol.2 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
真相は明らかになれど、疑問が残る主人公像。
◯作品全体
復讐劇としては『キル・ビル』の方が純度が濃く感じるのは、本作で語られる「エルパソの悲劇」の原因に言及したからだろうか。
自分の頭の中に浮かぶ復讐劇って主人公に非のない、純然たる悪が相手か、無自覚なまま怨みを買う…みたいなイメージがあるんだけど、本作の「子供を暗殺者にしたくなくて、子の父であるビルと話もせずに一般人と結婚してしまったから」っていうのは、なんというか、モヤるなあ。
主人公・ギトーの気持ちはわかるし、そうするしかなかったのもわかるけど、ギトー自身が新しい生活がうまく行くわけないことをわかっていてそれを選んだわけで。ビルに理解を求めることができないと分かっているのであれば、それは妊娠という結果を想定できなかったギトーにも相当の落ち度があるのでは?と思ってしまう。それに対するエクスキューズとして妊娠がわかってから暗殺者であることが怖くなったというエピソードが挿入されるけど、エルパソにビルがやってくる前にギトーが動かなかったことに少し違和感を覚えるし、ギトーの落ち度に気が行ってしまって復讐劇に見えなくなってしまった。
画面上では語られない「ギトーがビルを裏切ってしまったことの後悔」とか「ビルのギトーへの想い」がずっとモヤのようにかかっていて、「エルパソの悲劇」が語られたことで逆に復讐劇としてもギトーのドラマとしても不十分に見えてしまった。
一方でその時々のシチュエーションが孕む緊張感の表現は流石だ。結婚式場でビルが現れた序盤のシーンや、ビルのもとにギトーがたどり着く終盤のシーンは早々に火蓋が切られたとしてもおかしくないけれど、それぞれが理性的な振る舞いをするから余計に怖い。いつ爆発するかわからない均衡を見守る緊張感。ここにタランティーノ節と言えるものがある。
ギトーからすればビルに復習し、娘を取り戻したハッピーエンドだが、こんなに幸せでいいのか?と疑心暗鬼になるのも、またタランティーノ映画の風情。監督の頭の中には続編があるようだし、ぜひとも今回残ったモヤを取り除いてほしい。
◯カメラワークとか
・エル戦のアクションがかっこよかった。狭いスペースで、それをぶち破りながら戦う。どういうギミックが飛び出してくるかわからない感覚が楽しい。
・相手の刀を鞘の入れるアクションが好きなんだな…となった。
◯その他
・バドの「うだつの上がらない生活をしているが実は実力者」みたいな設定かっこいいのにあっさりとした死に際で悲しい。作中で一番ギトーを追い詰めたのに…。