「やりたい放題、趣味的ですらあります しかしそれは表面的なフリルに過ぎません 本作の本当の見どころは癖のある役者達を使って、それぞれ役の人間の中身、深み、背景をしっかりと表現しているところにあります」キル・ビル Vol.2 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
やりたい放題、趣味的ですらあります しかしそれは表面的なフリルに過ぎません 本作の本当の見どころは癖のある役者達を使って、それぞれ役の人間の中身、深み、背景をしっかりと表現しているところにあります
「今度いつ会える?」
「私の好きな70年代ソウルの曲の名だ」
ブライドの台詞は
When will I see you again?
その言葉は1975年のスリーディグリーズの大ヒット曲の曲名とそっくり同じだという意味です
邦題は「天使のささやき」
♪ウ~ウ、ハ~ア~の黒人女性三人組の甘いコーラスから歌い出される軽やかで爽やかな歌で自分も大好きな曲です
日本でも大ヒットしました
YouTubeで簡単に聴けます
このシーンの伏線が序盤の結婚式の予行演習でのオルガン弾き役のサミュエル・L・ジャクソンの台詞です
彼はルーファスと呼び掛けられますが、それは本当の名前かどうかわかりません
彼は過去に一緒に仕事をしたいたという連中の名前を答えるのですが、その先頭がルーファスだからです
単にいつものホラをいえよの軽口だったと思います
ルーファス・トーマス、ドレルズにドリフターズ
コースターズ、クール&ザ・ギャングにバーケイズ
どれもこれもブラックミュージックの超有名歌手やグループです
これはこうしたネタを使って大事なシーンを後で出すからアンテナ張っておいてねという監督からのサインです
vol.1 が画期的過ぎてどうしても本作は見劣りがしてしまいます
それどころか蛇足だとまで感じるかもしれません
でもキル・ビルはどちらかというと、実は本作のvol.2 が本編です
前作のvol.1 が何から何まで圧倒的だけれども、キル・ビルの物語としては膨らみすぎて分割された導入部でしかありません
だからタランティーノとしてはどうしてもvol. 2を撮らない訳にはいかなかった作品ということになります
やりたい放題、趣味的ですらあります
しかしそれは表面的なフリルに過ぎません
本作の本当の見どころは癖のある役者達を使って、それぞれ役の人間の中身、深み、背景をしっかりと表現しているところにあります
デビッド・キャラダインのビルが話す上記の台詞は正にそれです
彼が20歳代の頃、このような甘い曲を好んでいた青年であったという演出です
それもこの曲の名前に即座に反応するくらい熱中していたとわかります
続く二人の会話はビルの顔がバックミラーに写って表情を逃さず捉え続けているのです
マイケル・マドセンのバドの店のチンピラ店主に遅刻を叱られ口答えしたら、シフトをどんどん消されカウボーイハットまで貶されても文句ひとついわず、しおらしくギャビンカーに戻るシーンも素晴らしい
なんといっても本作で最高のシーンは、ビルの父親エステバンを演じたマイケル・パークスの演技だと思います
こころから感嘆しました
もし私が現役の頃に出会っていたら、
間違いなく、うちのナンバー1になってたよ
と彼はブライドにいうのですが、そのときウインクしているのです
もうこれには痺れました!
圧倒的な説得力のある演技と演出力です
アクションやケレン味の部分だけに目を奪われていてはなりません
タランティーノ監督の演出の実力は、深く心に刻まれるものです
タランティーノ恐るべしと!