アイ,ロボット : 特集
「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラムが俳優アンディ・サーキスが演じたキャラだというのはご存知の通り。同様に本作のロボット、サニーは俳優アラン・テュディックが演じたもの。しかし、この2者はまったく同じというわけではなさそうだ。
サニーはゴラムの進化型?
編集部
「アイ,ロボット」で物語の中心となるロボット、サニーは「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラム方式で作られた。そのプロセスは少し異なるが、考え方は同じ。そしてある意味で、サニーはゴラムの進化型だといえるかもしれない。
◆「ロード・オブ・ザ・リング」ゴラム方式
【1】このキャラ(ゴラム)を演じるアンディ・サーキスが俳優と一緒に演じる
【2】サーキス抜きで他の俳優だけで演じる
【3】サーキスがブルースクリーンでモーション・キャプチャー用のスーツを着てひとりで演じ、これを元にゴラムを作る
【4】ゴラムを【2】に合成する
◆「アイ,ロボット」サニー方式
【1】このキャラ(サニー)を演じるアンディ・テュディックがモーション・キャプチャー用の特殊スーツを着て、俳優と一緒に演じる
【2】テュディック抜きで他の俳優だけで演じる
【3】サニーは【1】を使って作成する
【3】サニーを【2】に合成する
つまり、サニーの場合はテュディックは1回だけ演じればよかったのだが、これはサニーがロボットだからだろう。ゴラムは人間ではないが人間のように見えるのがポイント。ところが、サニーは人間型ロボットだが、人間的すぎてもいけないし、人間には不可能な跳躍などロボットならではの動きも多い。それで、テュディックの動きを厳密にキャプチャーする必要がなかったのではないかと思われる。
だが、ポイントは「俳優たちが実際にCGIキャラと共演することが出来た」という点にある。「ロード~」以前は、俳優たちがCGIキャラと共演する場合は、誰もいないところで演じなくてはならなかった。そこにちゃんとCGIキャラ役の俳優がいるというのは、演技する上で大きな違いだろう。実際、主人公を演じたウィル・スミスはこう語る。「サニーが出ているシーンのすべてにアラン(・テュディック)がいたから、僕のアタマの中ではサニーはアランなんだ。俳優が演じたのとまったく同じだよ」
そのロボット、サニーを演じたアラン・テュディックは、ヒース・レジャー主演の「ROCK YOU! [ロック・ユー!]」のウィリアム卿の従者ワット役、「アトランティスの心」、全米で大ヒットしたベン・スティラーとビンス・ボーンの爆笑コメディ「ドッジボール」などで活躍する俳優。この役は彼なりに楽しんだようだ。
「ロボットはセクシーだと思うよ。ピッタリの全身タイツ、それもネオン・グリーン色で青い斑点が付いているようなものを撮影中ずっと着ていなくちゃいけないのは、ハードだったけどね。まるでボブスレーの選手になったみたいな気分だった。色違いの全身タイツもあってね、僕のお気に入りはシルバーのヤツさ。あれを着ているときは、全身銀色のアメコミ・ヒーロー、シルバーサーファーになったんだと思って演じたよ(笑)」
また、サニーの動きは他のロボットたちとは異なる。中心となるロボットたちの動きは「ダンシング・ヒーロー」に主演したポール・マーキュリオが振り付けたが、サニーの動きはテュディックのもの。
「僕はあの映画の中で唯一、マーキュリオに演出されなかったロボットなんだ」
監督アレックス・プロヤスもサニーはテュディックが演じたものだと語っている。
「現在の技術では、まったく俳優が演じなくてもサニーの映像を作ることは可能だ。でもそれじゃあ、サニーにならない。サニーの感情はそれでは描けないんだ。僕らはアランを1コマ1コマ、トレースしたわけじゃないけど、サニーの魂はアランが吹き込んだものだ。アランの身体は映像から取り除いて、CGI製のサニーに置き換えたわけだけど、それでもアランがセットで演じたものはフィルムに残っている。すごく発達した特殊メイクのようなものだよ。CGI製のサニーを通して、アランがやったことはフィルムに捕らえられているんだ」
こうした発言を聞くと、今後は「演技」という言葉の意味するものが変わっていくのかもしれないという気がしてくる。そんな意味で「アイ,ロボット」は私たちに映画の近未来をも垣間見せてくれる作品なのかもしれない。
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