ハンニバル : 特集
フィレンツェ在住ストリート・アーティストの独占手記、一挙掲載!
「ハンニバル」に出演した日本人
(文:齋藤智輝)
映画「ハンニバル」で、ベッキオ宮から吊るされたパッツィ刑事を指差して「あれ! あれ見て!」と日本語で叫ぶのは、何を隠そうこの私です。
私は現在フィレンツェに住んでいて、市にショバ代(私たちは税金と呼んでいる)を払って、大道芸のようなことをしています。大道芸と言っても私の場合、非常に地味なもので、道路にチョークとパステルで絵を描いて、道行く人にお金を投げてもらっているのです。これはイタリアではもともと宗教的な意味があって、現在もマドンナーロ(MADONNARO)つまり「聖母マドンナを描く人」と呼ばれています。
巨匠リドリー・スコット大先生の映画、「ハンニバル」の助監督を紹介してくれたのは、大道芸人仲間でした。フィレンツェでの撮影は昨年の5月からでしたが、「ハンニバル」の事務所は2月からありました。助監督のアルベルトは私の作品をかなり気に入ってくれたようで、ストリート・ペインティングはいかにもフィレンツェらしいし、是非使いたいと言ってくれました。そう、私は最初はストリート・アーティストとして映画に出演する予定だったんです。
ハ、ハリウッドデビューだ。それもリドリー・スコット大先生の映画で(「街の風景」としてだけど……)。
それだけでも嬉しかったのにその後、助監督から「実はレクター博士がクラリスの顔のデッサンを描くシーンがある。レオナルド・ダ・ビンチ風の線が引ける人を探してるんだけど、描いてみてくれる?」と言われ、ジュリアン・ムーアの写真を何枚か預かりました。描く描く。なんでも描く。しかももし私が描くことになれば右手も写るということで、デジカメで手だけ何枚か撮られました。
て、「手タレ」だ。
「タイタニック」でディカプリオがデッサンするシーンを見て「俺の方が上手いぞ」と豪語していた私です。もし本当に私のデッサンがスクリーンを飾ることになり、ハリウッド中から絵の依頼が来たらどうしよう? もしかして私はビバリーヒルズに住んで女優と結婚する運命ではないだろうか? う~ん、誰と結婚しよう。でも、どう見ても私の右手は62歳の白人のアンソニー・ホプキンスの手とは似ても似つかないのですが……。
とにかく私の絵を、リドリー・スコット大先生に見ていただけるというだけで嬉しかった。日本人のエキストラも探してるんだと、キャスティング・コーディネーターに紹介してもらったのは、その絵を持って行ったときでした。ちなみにイタリア人のエキストラはすごい倍率だったようです。一応、プロの俳優(女優)をやってて、「これを機会にメジャーになりたいんです!」という気合の入りまくった人たちが、たくさんいたらしい。
さらに、別のセクションからも仕事が来ました。東京の化粧品屋の防犯カメラの映像が必要で、セット・デコレーションを手伝って欲しいというのです。やるやる。なんでもやる。
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