ギャング・オブ・ニューヨーク : 映画評論・批評
2002年12月16日更新
2002年12月21日より丸の内ルーブルほか松竹・東急系にてロードショー
グラウンド・ゼロとは終わりではなく、始まりの場所である
ディカプリオはこの映画でもアイルランド系移民だし、沈没寸前の巨大な船の上で生死を賭けた闘争を演じている。“巨大な船”とはもちろんニューヨーク。ただし、この映画の物語は僕たちの知るニューヨークが誕生する以前のマグマ状の世界を舞台にしている。
もう少し正確に言おう。ディカプリオにとって父親の敵であるビル・ザ・ブッチャーによれば(えらく暴力的な彼の口からこんな言葉を聞くのも意外だけど)、彼らはある文明が崩壊する嘆かわしい過程を生きている。野蛮が文明によって克服されたのではなく、むしろかつてあった文明が野蛮な力で崩壊することで誕生した呪われた都市……それがニューヨークだとスコセッシは考える。
だから、この映画で最も素晴らしいのは、ビルを演じるダニエル・デイ=ルイスであり、彼はただ一人、自分たちが文明の破壊に手を染めつつあると自覚する(シェイクスピア風の?)悲劇的人物だ。ラストで出現する巨大な墓石のようなWTC。物語の舞台はWTCが聳えていた地点からあまり離れていない。つまり、映画はグラウンド・ゼロにおいて展開される。グラウンド・ゼロとは終わりではなく、始まりの場所であるということ……。
悪口を言うのは簡単だ。だけど、誰が何と言おうが、僕はこの映画に漲るポジティブ(前向き)なエネルギーに圧倒され、賛辞を送る。
(北小路隆志)