罪人たち : 映画評論・批評
2025年6月17日更新
2025年6月20日より新宿バルト9ほかにてロードショー
マイケル・B・ジョーダン×ライアン・クーグラー5度目タッグは全米大ヒット異色ホラー
1930年代の南部ミシシッピを舞台に、様々なジャンルを横断する異色のアクション・ホラーだ。4月に全米公開されるや2週連続の首位を記録、すでに全世界興収3億5720万ドルを売り上げ、2020年代のオリジナル作品としてはダントツのトップだ。評価も高く、米サイトRotten Tomatoでは批評家97%、観客96%のハイスコアを叩き出している。
シカゴで荒稼ぎをしていた元軍人の双子ギャング、スモークとスタックは、今度は黒人相手の酒場で一発当てようと故郷に戻ってきた。ブルース演奏と温かい食事、様々な酒を出すことで初日から盛況となった店内だったが、そこへレミックと名乗る白人が仲間とやってくる。彼らの正体は吸血鬼で、双子の従兄弟サミーが弾く天才的なギターの音色が彼らを引き寄せてしまったのだ。そして、生き残りをかけた人間とバンパイアの死闘が幕を開ける。

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本作は南部ゴシックのジャンルに、ブルースやアイルランド民謡で全編を彩りつつ、アフロ・アメリカンだけでなくネイティブ・アメリカンやアイルランド人、アジア人ら移民や原住民が受けた差別や搾取にも目を配る。大恐慌やジム・クロウ法、KKKやブードゥー信仰といった歴史や文化的コンテクストを踏まえ、弱者が結束して迫り来る吸血鬼たちに立ち向かう姿は、今の米社会にも共鳴するリアルがある。
監督は自身が大ファンであるロバート・ロドリゲス「フロム・ダスク・ティル・ドーン」「パラサイト」をオマージュ、加えてTVシリーズ「ミステリーゾーン」の「蘇ったジェフ」
(葬式の最中に生き返った男の話)、「キャンディマン(1992)」、「ドゥ・ザ・ライト・シング」などの小ネタに、十字路伝説(演奏技巧と引き換えに悪魔に魂を売り渡す音楽家)や、ラニアー湖の呪い(黒人が弾圧・追放された土地に作られた人工湖)、デメテル号(吸血鬼を欧州から運んだ難破船)などのナラティブを背景に忍ばせ脚本に詰め込んだ。
クリストファー・ノーラン(ノンクレジット)の助言を得て、映像はIMAXカメラで撮影された。特にハンナ・ビークラー(美術)が作った完璧な酒場セットで、オータム・デュラルド・アーカポー(撮影)の65mmフィルムが長回しで捉えた、アーコモン・ジョーンズ(振付)による異次元の群舞シーンは近年屈指の仕上がりだ。
前半のゆったりしたリズムはむしろ、後半の大殺戮を際立たせる役目と感じた。クレジット後のフッテージもたっぷりで、深く長い余韻を残す。交渉の必要性(吸血鬼は招かれなければ建物に入れない)や宗教観など、様々な示唆に富みながら、エンタメ要素満載の多層的な娯楽ホラー、観客にとって稀有な映画体験になるだろう。
(本田敬)