劇場公開日 2025年5月9日

「信念を貫き時代を駆け抜けた女性写真家」リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0信念を貫き時代を駆け抜けた女性写真家

2025年5月10日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

予告で興味をもち、公開2日目の朝イチで鑑賞してきました。客入りはそこそこあり、主演のケイト・ウィンスレット目当てか、作品の魅力かわかりませんが、9割は中高年男性でした。

ストーリーは、とある男性からの取材を受けた報道写真家リー・ミラーが、過去を回想しながら、トップモデルのキャリアを捨てて写真家となり、芸術家ローランド・ペンローズと出会って恋に落ち、ほどなく始まった第2次世界大戦で従軍カメラマンとして戦地に赴き、そこで味わった経験や撮影した写真について噛み締めるように語るというもの。休日の朝イチで観るにはなかなかヘビーな内容ではありましたが、それだけ見応えのある作品でもありました。

リーは、ナチス・ドイツからのパリ解放を通して、戦争の悲惨さや平和の大切さとともに、女性や子どものような弱者の救済をとりわけ強く強く訴えかけていたように感じます。戦地の惨たらしさ、戦争の愚かさを、文字通り命懸けでフィルムに収めたリー。それなのに、戦後の編集側の意図に合わず、その写真が一切掲載されなかったことに対する、リーの怒りと悲しみの慟哭が心を揺さぶります。戦中の生々しい現実をオブラートで包むように封印し、あたかも元どおりの平和が戻ったかのような印象を与える雑誌に、抑えきれない憤りと深い悲しみや絶望を感じたのではないでしょうか。

それは、深く傷つきながらも母によってなかったことにされた、少女期の忌まわしい経験と重なり、リーにとって許し難いものだったに違いありません。序盤に語られた、「見えない傷もある」と言う言葉が思い出され、観る者の心に重くのしかかります。戦争は人を殺し、街を壊すだけでなく、人々の心にも一生癒えることのない傷を残しているのです。酒に逃げているようにも見えるリーの姿から、彼女自身も戦地で心を蝕まれたことが窺えます。

一方で、写真や記事はどこまで現実を伝えられるのか、その可能性と限界に挑み続けたリーの姿がまざまざと描き出されているように感じます。本作のキービジュアルともなっているヒトラーのアパートの浴室での写真。撮影時に、ブーツの泥であえてバスマットを汚していたのが印象的です。支配者ヒトラーが汚れを洗い流していた浴室を、罪なき人々がホロコーストに遭った地の土を持ち込んで汚したように見え、彼女の抑えきれない怒りと被害者への鎮魂の記録のようにも感じます。

戦後、彼女は自身の仕事や業績について生涯語ることはなかったようです。それはささやかな抵抗であったのか、思い出したくない過去を封印したかったのか、今となってはわかりません。ただ最後に、リーに取材をしていると思われた男性は、実はリーの息子であり、彼はリーの死後に残された膨大な写真との対話から彼女の生涯を辿っていたことが明かされます。写真を捨てなかったリーは、たとえ日の目を見なくても、残すべき事実を、残すべき相手に託したかったのかもしれません。

鑑賞中、トップモデルから写真家への転身の理由をもう少し丁寧に描いてほしかったと思っていたのですが、ラストで明かされる彼女の生い立ち、後半生の生き方からは、その理由を推しはかれるような気もします。

主演はケイト・ウィンスレットで、信念を貫き時代を駆け抜けたリーを熱演しています。脇を固めるのは、アレクサンダー・スカルスガルド、アンディ・サムバーグ、マリオン・コティヤールら。

おじゃる
トミーさんのコメント
2025年5月11日

共感ありがとうございます。
戦争が作り出した人生とも言えるのが皮肉ですね。戦場カメラマンの衝動はあまりぴんと来ませんでしたが、弱く虐げられる事への怒りは感じられましたね。

トミー
ノーキッキングさんのコメント
2025年5月11日

熱演でしたが、戦時にあの体型はいかがなものかという思いが止まず……

ノーキッキング
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