「ありのままに生きることの難しさ」ロザリー レントさんの映画レビュー(感想・評価)
ありのままに生きることの難しさ
19世紀でも今でも自分のありのままに生きるのは難しい。本作はとても数奇な運命を背負わされたひとりの女性の物語。彼女の物語は普遍的な問題を含んでいる。
生まれつきの多毛症に悩まされてきたロザリーはこれが結婚できる最後のチャンスとばかりに奥深い田舎の村に父と二人でやってくる。
彼女がたどってきた苦難の人生はその手首に刻まれたためらい傷の多さでわかる。彼女もこれが最後のチャンスとばかりに一縷の望みをかけて結婚に臨んだ。アベルは優しそうな男性。この男ならもしかして自分を受け入れてくれるのでは。しかし彼もまた今までの男と変わりなかった。初夜で彼女の体を見たアベルはやはり彼女を受け入れられなかった。
もはや彼女に守るものはなかった。こうなれば開き直り自分の短所を長所に変えてやろうと大胆な行動に出る。見世物小屋で見たようなひげもじゃな女性を見せてやると彼女は村人たちに吹聴したちまち娯楽のない村はその話題で持ちきりに。
数日後、ひげを生やしたロザリーの姿に村人は驚きアベルの店は大繫盛に。街からは記者までが訪れてロザリーフィーバが巻き起こる。それをきっかけに心を開いた村人は彼女を慕うものもいれば逆に彼女を忌み嫌うものも。
思い切って自分をさらけ出すことですべてことがうまく運んだかに見えたが、肝心のアベルはいまだ自分を受け入れてくれない。彼女は半ばやけくそになり肌を大きく露出した姿を絵ハガキにして売り出した。そのために戒律の厳しい村ではさらに彼女への風当たりが厳しくなる。しかしそれとは逆にようやくアベルはロザリーに心を開いてゆく。
最初は彼女に同情していただけのアベルだったが、彼女のそのひたむきさに心を奪われ愛するようになる。しかしそんな彼女にさらなる追い打ちが。彼女は妊娠できない身体だったのだ。そんなショックも乗り越えて自分を慕う女の子を養子にしようとしたロザリーだったが、それさえも村の有力者の手で阻まれてしまう。
数奇な運命に翻弄されながらも最後までくじけず自分らしく生きようとした一人の女性ロザリー。ただ彼女は自分のありのままに生きようとしただけであった。しかしこの社会はそれさえも許してはくれない。
すべてのものから拒絶されて彼女が川に身を投げる姿は、狩りで追い立てられ自ら水に入り息はててゆく牡鹿の姿そのものであった。
しかし彼女を追ってアベルも川に飛び込み彼女をやさしく抱きしめる。どんな時代にも生きづらさを抱える人間はいる、しかしどんな時代にもそんな人間に手を差し伸べようとする人間がいるはず。悲しいラストにかすかな希望を抱かせる物語だった。
人は言うだろう、彼女は生まれた時代が悪かったと。もし現代に生まれていれば脱毛サロンや電気シェーバーや二枚羽ジレットカミソリがあるから、これくらいの毛深さは気にするほどのことではなかっただろうと。しかし彼女の姿はメタファーであり、どんな時代でもLGBTQの人々のように自分のありのままに生きることがいかに難しいことなのかを彼女の姿を通して本作は訴えている。
主演のロザリーを演じたのはタレントのローラさん似のかわいい女優さん、その顔にひげもじゃは確かに不釣り合いだけど、男装の麗人というのも悪くないし、美的感覚は人によりけりなんだろう。個人的には剃って欲しいけど。