「ドラマとエッセイが融合した不思議かつ温かい手触り」映画を愛する君へ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ドラマとエッセイが融合した不思議かつ温かい手触り
本作はアルノー・デプレシャンの監督作『そして僕は恋をする』『あの頃エッフェル塔の下で』でお馴染みの主人公ポールが幼少期、少年期、青年期と歳を重ねる姿を点描しつつ、成長の傍らにいつもあった映画の存在、および映画の誕生から現代に至るまでの歴史や人々へのインタビューをも独特のタッチで絡ませた一作だ。すなわちドラマとドキュメンタリーとエッセイが一緒くたになった異色な味わいと言うべきか。そのデプレシャン流としか形容詞しようのない語り口からは、「映画とは何か」という命題をただ難解に突きつけるのではなく、あくまで温もりあるドラマや日常風景に差し込む光のように優しく浮かび上がらせようとする趣向が感じられる。きっと観る側も自ずと胸に手を当て、初めて観た映画のこと、映画館の思い出、香り、一緒に見た愛すべき人の記憶を強く蘇らせるはず。そんな観客一人一人の積極的な共感あってこそ、この映画は完成するのだと強く思う。
コメントする