スピリット・ワールド(原題)
解説
2024年・第37回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門上映。
2024年製作/フランス・シンガポール・日本合作
原題または英題:Spirit World
スタッフ・キャスト
- 監督
- エリック・クー
2024年・第37回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門上映。
2024年製作/フランス・シンガポール・日本合作
原題または英題:Spirit World
東京で開催された映画祭で鑑賞しました。
なんか、あれこれ考えていたら、映画レビューでは破格の長さになりました。すみません!
この作品は、人生の中で長い時間をかけて心の奥底に蓄積してきた寂しさや苦しさから(竹野内豊さん演じるハヤトの場合)、また、人生を終えてもなおこの世に残ってしまうような思い、心残りから(堺正章さん演じるユウゾウ、カトリーヌドヌーブさん演じるクレアの場合)、魂を解放してくれる作品です。
ストーリーですが、
ハヤト(竹野内豊さん)は母親と生き別れ、心の中に埋めがたい孤独感を抱えながら生きてきた。それを吐き出すかのように打ち込んできたアニメーション映画の創作活動にもこのところ行き詰まっている。「ただ生活のために仕事をこなす毎日」に葛藤を抱え、アルコール漬けになっている。
ユウゾウ(堺正章さん)は、ハヤトの父。ハヤトが子供の時に離婚し、妻(風吹ジュンさん演じる)のその後をずっと案じてきた。また、息子のハヤトの今後も気にかけているが、その思いを残したまま、ある日亡くなってしまう。彼は生前、フランスのシャンソン歌手、クレアの大ファンだった。
クレアは歌手として成功を納めるも、娘?のエルサが亡くなり、そのことがどうしても頭を離れない。たまたま久しぶりに公演に来た日本で亡くなってしまう。
この世に思いを残してしまい、あの世に旅立てないユウゾウとクレアが、彷徨う魂として出会い、自分たちをこの世に縛って離してくれない「問題」を解決しようと動き始めます。また、今を生きているハヤトも、2人からの目に見えない後押しによって、苦しみの原因を見つめ、これまでの自分を乗り越えようとし始めます。
この3人の魂がどのようなプロセスを経て解放されて行くのかは、来年春に公開予定だそうなので、劇場でご確認いただければということで笑
俳優の皆さんについては、堺正章さんとカトリーヌドヌーブさんが語り合う演技が、すごく自然体で良かったです。
風吹ジュンさん演じる元妻や家族の皆さんは、優しく、温かく、人を包み込んでくれる陽だまりのようでした。竹野内豊さんは、身ま心もギリギリの状態でやっと母親とその家族に出会い、凍ってしまっていた心が解けてゆく様子がよく出ていました。
、、、で、「プロセスは内緒なのに結果は言っちゃうの?」と言われそうですが、、、
彷徨っていた魂たちは最後、穏やかに解き放たれて行きます。ハヤトは自分の母親やその周りの家族の温かさに心を救われ、ユウゾウとクレアは、この世への心残りが無くなり、あの世に旅立って行きます。そしてそのような主人公たちを見ている自分の魂も、一緒に明るく温かい方へ浮き上がっていくように感じました。
また観た後、人を苦しみから救うのが温かさなら、心の温かい人になっていきたいなー、と思ったり、人生の終わりに思いを残さないよう、毎日、澄んだ気持ちで生きたいな、と思ったりした作品でした。
因みに、自分も浮き上がってゆく感覚は後にも書くように、不思議なことに映画を観ているときよりも、家に帰って映画と自分の人生を重ねてみた時に、より一層強く感じました。映画が「観た後」に与える影響というのは、自分の場合本当に大きくて(時に人生に影響を与える程のものも)、驚かされます。
さて、ここまでは映画の大まかなストーリーと映画全体に対する感想ですが、ここからは、あら?と面白く感じたことなどをちょこっと。
一つ目は、監督と脚本家(監督のご子息)のお2人は、もしかしてソーバーキュリアスでは?と思うほど、主人公の3人が「あらあら、そんなにお酒を飲んじゃって、、」な状態だったことです笑(表立ってお酒を悪の権化と表現している訳ではないんですけどね)。お酒を飲むということがどういうことか考え直してみるよう、促されているような気持ちになりました。
まずユウゾウさん。震える手で湯呑みにお酒を注いだと思ったら、愛聴盤のクレアのレコードを聴き始め、楽しんでいるかように見えたのも束の間、湯呑みが床にゴロンと転がって、息を引き取ります。
次にクレアさん。エルサのことを思えばやるせなさがつのり、日本での公演後、お酒を飲める場所を求めて小料理屋に飛び込みます。そこでお店の大将が不安になるほどコップ酒を煽り、案の定酔い潰れ、そのまま急死してしまいます。
最後にハヤトさん。身の回りはボトルだらけ(え。そんなにあるの?くらい)。カップラーメンにお酒をドボドボ注いで食べてしまうくらい重症、、、。
お酒との付き合い方ついて考えた経験は、実は自分にもあります。今から10年くらい前の一時期、つらい、苦しいが限界になって眠れなくなり「お酒でも飲んで頭を空っぽにしたら眠れるかも」とお酒を飲んだ時がありました(当時は、20年くらい前に一度落ちた隕石が、まさかの2度目で落ちてきたような状況ですかね笑。2度もこういう事態に遭遇するとは、生きる意味を見失ってしまうかなあ、くらいの事態したが、その前からすでに色々と限界が来ていたので、お酒で頭を空にできるかも、なんて考えてしまいました。実際には、私はお酒を飲んで特に楽しくなれるタイプでもなく、お酒で食事を美味しく感じるタイプでもなく(お酒が無い方が断然おいしく感じる)、寝酒にするには肝臓が強すぎた笑(すごく強いお酒を沢山飲まない限り、酔わない)ため、自分にはお酒は合わないなと感じるに至りました。
そもそもその当時は、お酒を飲んだ一口目以外は(99%)ただただ、「苦しい、悲しい」で飲んだので、あれをもし続けたら身体にも良くないだろうな、と思いましたね(そんな気持ちで飲まれたら、お酒だって気の毒!!笑)。もしかしたらお酒もタバコも似たようなものかなという気がするのですが、そういうネガティブな気持ちで摂取して、それが体の中で悪さをしないはずがない気もします(苦しさから逃れるためにすがる訳なので、依存気味になって過剰摂取してしまうし、体の中に入ったものも、楽しい気分で飲んだ場合とは違って、健康を害する方向に働く気がします)
ハヤトのように飲んでいたら、生きることを放棄する方向に向かって行ってしまうから、お酒は危険だな、思いました。ハヤトもそうですが、「苦しいから飲む」人は、お酒は合わないんじゃないかな、、、。
その人にとってお酒がどう影響するのが、合うか合わないかなどは人によって違うと思うので、この映画にソーバーキュリアスな意味があるかどうかは実際のところ不明ですが、自分の場合はどうか、見つめ直して見るのも良いかもしれません。
お酒の話がめちゃ長くなりましたが、この映画でもう一つ面白く感じたのは、作中に出てくる「リベルテ」という歌の、潜在意識にキョーレツに働きかける、サブリミナル的な効果です。
エンドロールをしっかり見なかったので分かりませんが、実在する歌手の歌ではなく、この映画用のオリジナル曲なのかな、、、。
登場人物3人の魂の救いを象徴するのが、この(2つの言葉だけで文章にすらなっていない笑)「リベルテ〜、リベルテ〜(自由)、モナムール(私の愛するひと)」という一節の繰り返しのように感じました。
サブリミナル効果と言ったのには理由があって、映画館でこのフレーズを聴いた時よりも、家に帰ってからの方が、自分の意識に大きな影響を与えたのを感じました。
家に帰ってから、作中の主人公3人の残像がある中で、あれこれ自分の過去を思い出して、何となく気持ちがダウン気味になってたんですが(人生、誰しも多少の苦労はありますよね(^^;)) 、突然この「リベルテ〜、リベルテ〜、モナムール」が頭の中で再生され、「これから先の人生は、自由に気楽にいけば良いよね〜」という超イージーな(良い意味で)気分に支配されたという不思議を体験しました。その効果の強烈さを、多少誇張したイメージで言うとしたら、、、厚く灰色の雲に覆われていた空に、急にパーッと光が差した、、くらいの効果でしょうか⁈ リベルテ、モナムール、恐るべし!
本作品は、映画鑑賞としては珍しく、最終的に絵画的なイメージが印象に残ったのですが、人生を悔いなく生きるには、満天の星空の下で(過去のストレスや苦しみからは離れて)、ただただ自由におおらかに、自分を目掛けて空から降ってくる流れ星を手のひらで受け止めて、その光を大切にしてゆけば良い、、、そんな気持ちになりました!(流れ星を受け止めるイメージはおそらく、作中にひょっこり現れた細野晴臣さんが参画されたアニメ映画「銀河鉄道の夜」を思い出したことの影響と思われます、ハハハ(^^)。これも一種のサブリミナル? サントラ、好きだったんですよね〜。また聴いてみようっと♪
追伸:
クレアの魂が救われるためには、エルサの問題を解決するプロセスが必要だという気がしたので、そこが描かれていなかったのが、少し残念でした。ストーリーが散漫になると思ったのかな、、、、