ボウリング・フォー・コロンバイン : 特集
お笑いゲリラ、マイケル・ムーアを直撃!
ここで筆者がオタクな質問。「ヘストンのインタビューのとき、『オメガマン』を引用してますね……」「オメガマン」(71)は細菌兵器で人類が死滅し、生き残ったヘストンが他の生存者(吸血鬼と化した黒人)をマシンガンで撃ちまくる。『オメガマン』は当時のブラックパワーへの恐怖が生み出した映画なのだ。「あれは狙ったジョークですか?」
「その通り!」ムーアは大喜び。「今まで数え切れないほどのインタビューを受けたけど、『オメガマン』を使った理由に気づいたのは君だけだ。ありがとう!」
感謝されついでにもう一発。「『~コロンバイン』であなたは銃社会アメリカの歴史をアニメーションで表現していますが、あれは『サウスパーク』を作ったトレイ・パーカーが学生時代に作ったアニメ『アメリカの歴史』そっくりなんですが……」
「え? 本当に? 『パクリやがって!』って怒られるかな?」と、ちょっと心配してみせたが「いや、大丈夫さ。だって彼らの『サウスパーク』の映画版は僕が作った『大進撃』にそっくりだから、これでおあいこだ(笑)」
サウスパーク「大進撃」はムーアが95年に撮った劇映画。冷戦終結で敵を失ったアメリカが軍事予算削減を防ぐためにカナダを仮想敵国にしようとプロパガンダを繰り広げる。「ジム・キャリーだのマイク・マイヤーズだの、お笑い芸人はカナダ人ばかり。これはアメリカ人を白痴化する策略だ!」いっぽう「サウスパーク/無修正映画版」はカナダ人コメディアンの下品なギャグに怒ったPTAがアメリカ政府を動かして戦争に発展する。
「『サウスパーク』を作ったトレイ・パーカーとマット・ストーンには2年前に会って『パクリやがって!』って冗談で言ったよ(笑)。世界貿易センタービルのてっぺんのレストランで(笑)。そのとき、マットがコロンバイン高校の出身だと知ったのさ」
「~コロンバイン」にも、マット・ストーンが顔を出している。マットによると、この高校は保守的で、とにかくスポーツ選手が王様扱いされているという。フットボール選手を射殺したエリックとディランは、マット同様オタク少年でイジメられっ子だったとムーアは言う。「その違いは紙一重だ。マットはアニメーションを取った。エリックたちは銃を取った」
ロック・ミュージシャンのマリリン・マンソンは、エリックたちが愛聴していたというだけで政治家に叩かれ、デンバーでのコンサートは中止になった(ガン・ショーは行われたのに!)。マンソンは「~コロンバイン」で「本当の原因は恐怖だ」と語る。「彼のおかげで映画のテーマが見えてきた」とムーアは言う。
「実はアメリカの国民1人当たりの銃の所有率はカナダやスイスを下回る。でも、アメリカではカナダの百倍以上も銃で人が殺されている。なぜか? 恐怖のせいだ。人は普通、貧しい人を見ると可哀そうだと思う。ところがアメリカ人は貧しい人たちを見ると『何かされそうで怖い』と思うんだ。ひどい個人主義だ。たとえば今、僕は健康保険についてのTV番組を作っているんだけど、普通の国では貧しい人が医療を受けられるように健康保険があるだろ? アメリカに国民健保はない。『貧しい人の医療費を金持ちが払ってやることはない』と反発されたからだ」
ムーアの今のところ唯一の劇映画「大進撃」は、必ずしも興行的には成功していない。では、もう劇映画は撮らないのか?
「本当は、シネコンで上映されてみんなが楽しめる映画に自分の主張を込めたいんだ。今のハリウッド映画はどれもマーケティングに基づいて作られるから、似たようなマクドナルド的映画ばかり。でも、昔は作者が観客に自分の主張をぶつける映画がいっぱいあった。『狼たちの午後』や『セルピコ』や『プラトーン』や。どれも娯楽映画として大ヒットしたのに、ああいう映画はもう作られなくなった。僕は最近、映画館で途中で席を立ってしまうことが多い。そして帰りの車の中で『こうなったら僕が映画を救うしかない! それが僕の使命だ!』って叫ぶんだけど、カミさんに言われるんだ。『ハイハイ、そんなことより前見てちゃんと運転して』ってね(笑)」