劇場公開日 2003年1月25日

ボウリング・フォー・コロンバイン : 特集

2003年1月24日更新

「ボウリング・フォー・コロンバイン」を引っ提げて、実に久々に映画の世界に戻ってきたマイケル・ムーア。かつて、80年代の終わりに傑作ドキュメンタリー「ロジャー&ミー」で業界の拍手喝采を浴びたムーアは、今作でなんとカンヌ映画祭に殴り込み。審査員団に「カンヌ映画祭55周年記念特別賞」なる賞を特設させて受賞したということからも、やはりただ者ではないことが分かる。そんな稀代の曲者映画作家に、町山智浩氏が突撃取材を敢行した。(聞き手:町山智浩)

お笑いゲリラ、マイケル・ムーアを直撃!

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マイケル・ムーアはデモや爆弾の代わりに、カメラとギャグを使う「お笑いゲリラ」だ。「客観的報道」が身上の「社会派ドキュメンタリー作家」などでは決してない。

マイケル・ムーアはミシガン州フリントに生まれた。そこは住民の大半がGM(ゼネラル・モーターズ)で働くブルーカラーの町。80年代終わり、GMは工場の閉鎖を決めた。「町が滅ぶう!」ムーアはGMの社長に直談判しようと追い掛け回した。それを記録した映画「ロジャー&ミー」で彼は映画作家としてデビュー。それ以来、ムーアは一貫して貧しい庶民のために大資本家や腐敗した政治家たちにお笑いテロを仕掛け続けてきた。

彼のテロは映画だけに止まらない。例えば、昨年彼が書いた「アホでマヌケなアメリカ白人」は既に印刷も終えて製本の途中だったが、出版社は「対テロ政策で全米がブッシュ大統領を支持しているから」と、ブッシュ批判の箇所を削除するよう要求した。「そんなバカな!」頭に来たムーアは全米各地で朗読会を行って支持者を増やし、製本が終わった分だけAmazon.comで先行発売するとたちまちベストセラーに。結局出版社は折れた。

そして「ボウリング・フォー・コロンバイン」だ。99年、コロンバイン高校で生徒2人が学友を銃殺した事件で保守派の人々は過激な音楽やゲームのせいだとメディアを攻撃したが、そうじゃないだろ。問題は銃だろ? と、ムーアは銃社会アメリカの病理を暴いていく。圧巻はコロンバインの犯人に銃弾を売った大手スーパー、Kマートの本社に、コロンバインで撃たれて一生車椅子になった生徒を連れて殴りこむシーンだ。ムーアのしつこい「いやがらせ」に根を上げたKマートはついに全店での銃弾の販売を中止する。

だから「~コロンバイン」はどんな芸術映画よりも素晴らしい。映画で実際に世の中を(少しだけど)良く変えて見せたのだから。学生たちがデモをしたり、テロリストが爆弾を使っても世の中は変えられないというのに。

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