「美味しい餃子が焼けますように」ファーストキス 1ST KISS sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
美味しい餃子が焼けますように
ズルズル泣いた。
坂元裕二の世界にどっぷりと浸り込みながら、次から次へと湧き出てきたのは、どうしても重ねて考えさせられる自分たち夫婦関係のこと。
気に入らないときもあれば、ケンカするときもあるけれど、それも含めて、今の妻のかけがいのなさを改めて思い起こさせてもらった。感謝。
松村北斗がいい。
「夜明けのすべて」の山添と近い雰囲気でもあったが、今回は年齢差のある役柄も、とても自然に(声だけでも)演じ分けており、キネマ旬報の主演男優賞に恥じない演技だった。
もちろん松たか子は、申し分なし。坂元裕二との相性だけでなく、30歳頃のキュートさや青さが、40代の時にも、時折顔を覗かせるような演技の深さがさすが。
今作は、「死」がストレートに描かれる。ドラマづくりやエモさのために、安易に「死」を扱ってないかい⁇…と言いたくなる作品もあるが、今作は「死」ではなく、その反対の「生きること」がテーマなのだなと素直に納得できた。
自分の中では、孤独の中での老いとの向き合い方を描いた「敵」と対をなす、夫婦(パートナー)と共に、いつかくる互いの終末にどう向き合っていくかを描いた作品と感じた。
★以下、内容に触れています。ネタバレを避けたい方は、以下はお読みにならないでください。
映画を観終わって考えたのは、オリジナルの世界線のカンナが、最後のタイムリープを終えて現在に戻り、やっぱり駈がいなかったことを確認した時に、どんな気持ちになったんだろうということ。
でも、きっと、それまでの20回ほどのタイムリープ時とは違った受け止めができたんじゃないかなぁと思う。
この映画の中で一番泣けたのは、夫婦生活のすれ違いや離婚に至ったいきさつまで、まだ現時点では付き合ってすらいないカンナの口から聞かされて、なおかつその内容は、今は何もアクションを起こしていない自分自身の未来の行動についてであって、どうもカンナにだって非がありそうなのに自分ばかりが責められて…という駈が発する、「僕は結婚したい。なぜなら、もう一度君に会いたいから。結婚しなければ、今の、15年後の君に会うことはできないから」というセリフだった。
ああ、これだ…と思った。
ぶつかることはダメなことと思いこんで、よかれと、ぶつからないように我慢しあった結果、取り返しのつかない所まで行ってしまったのが、オリジナルの世界線の「離婚」なんだろう。
それに対して、最後のタイムリープの時にカンナの口から出てきたのは、「結婚は減点方式で、教官同士の教習所」とか、2本のボールペンの例え話とか、ここぞとばかりに駈にぶつけるマイナスの言葉だらけなのだが、それは同時に、駈に生きていてもらうために、何回も何回もタイムリープをリピートしてきた末に生まれた、自分と結婚させないための言葉な訳でもあって、きちんとカンナの言動の奥にある気持ちを受け止められた駈に泣けたし、カンナの振る舞いが、自分も愛おしかった。(あのロクでもない教授のいけ好かない娘に譲ってまでも、駈を生かそうとするところとか…)
自分が死ぬとわかりながらも、迷わず赤ん坊を助ける駈の心情も、想像するだけで泣ける。一瞬躊躇するだけで、赤ん坊は助からなくなるかもしれない中やり遂げた訳で…。
カンナに「赤ん坊はどうなった?」と尋ね、無事だったことを聞いて安堵の表情を浮かべたときから、カンナも、駈はきっと自分が死ぬとわかっていてもまた助けるのだろうと思ったに違いない。でも、そういう清廉さと勇気を持った駈だから、やっぱりカンナは「家族に悲しい思いをさせて…」と恨みごとを言いながらも愛していたんだと思う。
この映画の中で、正確には覚えてないが、「寂しいって気持ちは、愛おしさがあったからこそ」のような言葉が出てきた。「あれ? 最近、別の映画で似たようなセリフに出会ったぞ」と思ったら、アットザベンチで、生方美久が書いた脚本の中に、「寂しいという気持ちは、楽しい時間があったから」みたいな表現があったことを思い出した。
生方美久といえば、坂元裕二のファンであることを公言しているが、同じようなセリフを同時期に執筆したであろう脚本の中でシンクロさせるなんて…と思ったら、鳥肌が立った。
いずれにしても、「死」は、誰も避けることができないものだし、多くの場合、そのタイミングについては誰も知らない。
ならば、我々ができることは、生きている間、どれだけ愛おしく楽しい充実した時間を過ごせるか、そしてそれを、愛する人たちと悔いなく分かち合えるかどうか、そこしかないということだろう。
オリジナルの世界線のカンナも、ラストシーンのカンナも、それぞれ美味しい餃子が焼けるといいね。
sow_miyaさま
2回目の鑑賞で、再々入荷のパンフレットを購入できました。
2回目は涙は出なかったのですが、パンフレットに泣いてしまいました。
レビューのラストに、パンフレットの感想を追記しました。
sow_miyaさま
コメントありがとうございました。
>ズルズル泣いた
この映画の涙は他の映画とは違って、ギリギリ溢れないくらいの涙が、ずーっと瞼に溜まっていたような感じでした。
トミーさん、コメントありがとうございます。
2009年の8月1日には、オブジェの据え付けにきた若き日のカンナと結ばれる世界線の話なので、駈は記憶があるけれども、カンナには記憶がないということだと思います。
共感ありがとうございます。
離婚は回避していたので、未来は一部ですが大きく変わった、それを最後の手紙で思い出したと思いたいですね。カンナの記憶は何故無い?でしたが、高速事故が起きる前だからですかね。