「全知全能に近いヴァンパイア」アビゲイル Paula Smithyさんの映画レビュー(感想・評価)
全知全能に近いヴァンパイア
映画も始まって23分が経った頃にお目付け役のジョーイにアビゲイルが、こんな意味深な事を言う。
Abigail: Joey?
Joey: Yeah?
Abigail: I'm sorry about what's gonna happen to you.
ワンシチュエーションの撮影場所は、アビゲイル役の少しこまっしゃくれた、訛りのある英語を話す12才の設定のアリーシャ・ウィアーさんの生まれ故郷でギネスビアーの発祥の地であるダブリンにある、そのギネス邸で撮影されている。
もちろん、最近鑑賞した『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』のようにゴシック調の世界観の吸血鬼映画は山ほどある。あるが、この映画ほど愉快で無秩序でアップテンポなものは少ない。たとえば、チュチュを着た 12才の女の子のノスフェラトゥが首のない死体と、バレエのパ・ド・ドゥを踊るシーンは日本では決して見ることができないし、他には記憶がない。
息もつかせぬテンポと、ホラー映画であると同時にコメディ映画にもなり得るブラックユーモアに満ちた本作『アビゲイル』は、ほとんどの時間で非常に楽しめる作品だが、バロック風の物語の華麗さが過剰に重くのしかかるのと並行するようにビランが12歳の女の子の吸血鬼では単調になり、凄みのあるメーキャップも迫力が薄れていき、ワンシチュエーションの持つ繰り返しのような映像は、間延びをしたように負の作用も感じてくる。そうはいってもバレエダンスをはじめスタント・ダブルではなくアリーシャ・ウィアーさん自らがかなりアクションに挑んでいるのが見れば分かるかもしれない。
Abigail: There's a secret door in the library. The bookshelf
on the right wall.
"And Then There Were None."
6人の誘拐犯が人物を特定できないように本名ではなくニックネームでお互いを呼ぶことにしたのは、ある映画から拝借している。
ギミックを使ったゴアな表現はある意味、創造の範疇を越えているし、その事は佳境を迎えるラストシーンの血の池地獄で味わう事が出来ます。
何と言っても『マチルダ・ザ・ミュージカル』で見せたアリーシャ・ウィアーさんの演技力は大人たちを寄せ付けず彼女の人を引き付ける魅惑的な主役の演技がなければ、この本作品はここまでうまくはいかなかっただろうし、小柄な吸血鬼を恐ろしく、皮肉っぽくも滑稽に演じており、ピーター・カッシングでさえも撃退はできないかもしれない。
それを見逃さずにとくとご覧あれ!