配信開始日 2024年2月29日

パレード : インタビュー

2024年3月25日更新

長澤まさみ坂口健太郎が明かす、再共演までの軌跡 氷点下の過酷環境で発見したお互いの魅力とは?

「パレード」で再共演を果たした長澤まさみと坂口健太郎
「パレード」で再共演を果たした長澤まさみと坂口健太郎

余命10年」の藤井道人監督、長澤まさみ坂口健太郎横浜流星森七菜寺島しのぶ田中哲司リリー・フランキーらが共演したNetflix映画「パレード」。2月29日に配信開始され、日本における「週間映画TOP10」で2週連続1位に輝くなど好評を博している。

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本作は、この世に未練を残して成仏できない者たちが集う世界を舞台にした物語。息子と離ればなれになってしまった美奈子長澤まさみ)は、親切な青年アキラ(坂口健太郎)や元映画プロデューサーのマイケル(リリー・フランキー)らと行動を共にしていくなかで、自らの死を受け入れていく。藤井監督が2022年に亡くなったスターサンズの河村光庸プロデューサーへの想いを織り込み、死者と生者がもう会えないなかでお互いを愛する感動的なヒューマンファンタジーに仕上げた。

映画.comでは、長澤まさみ坂口健太郎の対談をお届け。初共演となった「海街diary」(2015)から本作に至るまでの軌跡を語っていただいた。(取材・文/SYO、撮影/間庭裕基


――おふたりの初共演は「海街diary」ですが、今回の再共演はいかがでしたか?

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長澤「やっぱり嬉しかったです。『海街diary』後の健太郎さんの活躍はテレビや映画で拝見していましたが、物語の世界の中で役として生きている“当たり前のようにそこにいる人”と感じていました。俳優になるべくしてなった人と思わせる姿をずっと見てきたため、昔から知っていたような気になりましたし、今回も久しぶりな感じもせず違和感なくスッと溶け込めました。たくましいな、頼りになるなと思いながら撮影をしていました」

坂口「嬉しいです。僕は『海街diary』のときは緊張しかしていませんでした。当時の自分はまだ“現場”や“撮影”というもの自体がよくわかっていなくて、長澤さんが現場でどう動いてくれているかもちゃんと見えていなかったと思います。でもそこから仕事をしていくなかである程度は理解できて頭が回るようになって、周りの環境に気づけるようにもなりました。今回は撮影環境が過酷でしたし、シーンに合わせて夜通し撮影をしないといけない日もありましたが、そこで美奈子として、長澤さんとして引っ張っていってくれる心強さを強く感じていました」

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――長澤さんは「百花」「四月になれば彼女は」、坂口さんは「余命10年」等でも本作の撮影監督・今村圭佑さんとご一緒されていますね。

長澤「藤井監督と同じように、今村さんもずっと河村さんと一緒に映画づくりをしてきた一人で、河村さんへの熱い思いがあります。子どもが親に喜んでほしくて頑張るみたいに“いい作品を作って天国の河村さんに見せるんだ”という純粋な気持ちを常に感じていました。本人も“気持ちが入りすぎて、いいものしか撮れていない”と語っていたのが印象に残っています。普段はもっと不安がるというか、プライドも持ちつつ俯瞰している人でしたから、前のめりに作品と向き合っている姿が新鮮でした。それを見ていて、“頑張れ!”という親心のような感情が芽生えてきました」

坂口「確かに、今回の今村さんは一番無邪気でした。今村さんも藤井さんも僕も子どもな部分があるので、よくふざけていましたし、張りつめた緊張感のあるシーンでも楽しさを感じながら撮っていたところはあると思います。このワンカット、ワンシーンを撮っている喜びがすごくあるんだろうなと感じていました。あとはやはり、感情を撮ってくれるカメラマンだと感じます。藤井監督とのバディ感もあり、セリフを言い終わっても監督がカットをかけなかったら、そこに滲む感情をきちんと掬い取ってくれる。そうした今村さんの持ち味を再認識しました」

――お二人が演じた美奈子とアキラについて。リリー・フランキーさんが「何も知らない/わからない状態からこの“世界”に入ってくる美奈子は難しい役」とおっしゃっていましたが、その美奈子に対してアキラは案内人的な立ち位置でもあります。

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長澤「そう考えると、『海街diary』のときと立場が逆転した感じもありますね。何もわからない私に手ほどきをしてくれるのが健太郎さんで、彼が元々持ち合わせている人となりと役柄が重なり、温かいゆりかごの中に招き入れてくれるような感覚になりました。健太郎さん自身が心をオープンにして受け入れてくれる人だったので入りやすかったですし、アキラという存在がいることで美奈子はコミュニティの中に入っていくことができて、この世界を受け入れられたと思います。私の印象ですが、本人のイメージは役に投影されるものだと改めて感じました。健太郎さんには、知らないうちに楽しい方向・安心する方向に誘ってくれる力がありました」

坂口「ただ、今回の現場では僕がそう動いたというより、みんなにいじられていた感じです。好きな食べ物の話になって、僕が『卵です』と答えたらその日からリリーさんが“たまごちゃん”と呼び始めて、どんどん浸透していきました(笑)」

長澤「私がクランクインしたときにはもう呼ばれていましたよね(笑)。大体みんな“肉”とか答えるものだから、新鮮だったんじゃないかな」

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坂口「肉も卵も、そんなに変わらない気がするんだけどなぁ……(笑)。という話は置いておいて、美奈子という役柄はこの物語の語り部になると同時に、計り知れない感情を抱いた人物だと感じていました。目を覚ましたところから何が起きているかわからず、悲しみや苦しみ、虚無感といった様々な感情が渦巻いていて、それらが絡まってきつく結ばれてしまっている。それを最初に緩めるのがアキラなのだろうと。きっと彼は、命を落としてこの狭間(はざま)の世界にたどり着き、いまどういう状況なのかわからない人をたくさん見てきたと思うんです。その人たちの感情は計り知れないけど、それでも手を差し伸べる人なのだなと、美奈子を通して感じられました」

――狭間の世界に足を踏み入れ、混乱した美奈子に最初に声をかけるのが、アキラです。坂口さんが醸す安心感が印象的でした。

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坂口「美奈子とアキラの出会いのシーンは、僕も強く印象に残っています。彼女は今まで当たり前だったものがそうじゃなくなって、他者に触れもしない、呼びかけても答えてくれず、息子もどこにいるかわからない状況に一気に陥ります。到底想像しえないほどのショックでしょうし、つらい内容ですが、アキラが声をかけることで初めてこの世界の住人と心を通わせるシーンでもあります。新たにやってきたナナ(森七菜)への説明等、アキラがやってきたことを美奈子が受け継いでいく展開もありますし、この出会いからの移り変わりがとても素敵だなと感じながら撮影していきました」

――美奈子は報道番組制作者で、アキラは小説家を目指していた人物です。両者は共に「他者に伝える/残す」ことを目指していた、という共通項もありますね。

坂口「アキラの『少し、好きでした』というセリフがありますが、恋愛的な好きとは少し違う気がしています。美奈子に対して分身のような感覚があり、リスペクトもあって、一緒にいて心地がよかったり、フィットするソウルメイトのような存在としての“好き”ではないか――と思いながら演じていました」

長澤「わかります。青春時代の恋愛とは違う、大人同士の精神的な愛に近い感覚でした」

――自分は藤井監督から決定稿になる過程の脚本を都度共有していただいていたのですが、アキラと父親のエピソードは最初はありませんでしたね。

坂口「そうでしたね。藤井さんに『アキラの未練や、ここに残っている理由は何なんでしょう?』という話をしたおぼえがあります。そうしたなかで、お父さんのエピソードが追加されていきました」

――撮影のお話も伺えればと思いますが、本当に寒かったですよね。撮影にお邪魔したときに気温を計ったら「6℃(体感3℃)」でした。

坂口「確か、氷点下になったときもありました」

――スタッフさんからは、アキラの父の家のシーンが特に寒かったと伺っています。きっとそのときではないでしょうか。

坂口「あれは本当に寒かった……(笑)」

長澤「今回の撮影で一番寒かったです」

――商店街を封鎖したパレードシーンの撮影時も寒かったですよね。と同時に、亡くなった年代に合わせてコギャルもいればヒッピーもいる……といったビジュアルや、前出の星砂遊園地のロケーション等々、本作ならではの部分を多く感じました。

長澤「パレードについても、最初から“こういうルールで動く”というものがなく、手探り状態でした。本作を撮影している時間は、みんなで話し合いながら“この世界はこういうもの”を見つめて考えていく時間でもありました。みんなで共有しながら世界観や秩序が出来上がっていくのがすごく楽しかったです。最終的にはマイケルさんの言葉を借りれば“考えるのが矛盾”なのですが、演じるうえではどう取り組んだらいいのかやっぱり考えてしまうものです。そういう風に迷う時間こそが、大切だったといまは思います。この“世界”にはそういった人が残っているわけですから」

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――葛藤や後悔、未練を残しているから“その先”に行けない、というお話ですね。演者が迷う体験が、役とシンクロしていく。

長澤「スタイリストさんが本作をお子さんと観て下さったのですが、『どうしてみんな“ごめんなさい”と言うの?』という感想が出たそうなんです。未練を解消できずに死んでしまった人たちが大事な人と出会ったときに、なんで“ありがとう”と言わないのか、不思議だったと。その話を伺った際に、“ごめんね”という気持ちがある人しか、この世界には残っていないんだと再確認しました」

坂口「ただ、“ごめんね”という気持ちを持った人たちが集まる場所ではあるけど、哀しみだけじゃないのがいいですよね。自分の大切な人が亡くなったとしても、もしかしたらこういう世界でこんな時間を過ごしているのかも、と思うと救われるところがありますから」

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長澤「確かに、生きている側からするとそう感じられるかも。精神的にはいまお話ししたような感覚で現場にいましたが、肉体的にはとにかく寒かったです(笑)」

坂口「風も強かったですよね。(田中)哲司さんの髪がずっと斜めになってる!と思っていました(笑)」

長澤「そうそう(笑)。哲司さんと健太郎さんの衣装が一番薄かったんです。2人だけ寒さの中で強張って、身体の形が変わっているんじゃないかと思っちゃうくらいでした」

坂口「(横浜)流星も薄いな、と思っていたのですが、実はセーターの下にインナーダウンを着ていたみたいで“流星、ずりー!”となりました(笑)」

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