「三谷幸喜の話をしよう」スオミの話をしよう 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
三谷幸喜の話をしよう
『スオミの話をしよう』の話をしよう。
最近もNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が評判となり、『情報7daysニュースキャスター』でMCを務めるなど精力的に活躍している三谷幸喜だが、映画監督はコロナ前の『記憶にございません!』以来とはお久し振り。
5年ぶりの映画監督最新作は…
大富豪の妻・スオミが突然失踪。
4人の前夫と現夫の5人の男が集うが、各々が語るスオミは全く性格が違う…。
スオミは何者なのか…? スオミは何処に…?
謎と男たちが巻き起こす珍騒動。
製作発表や予告編を見た時から、期待。題材も作風もらしさ全開で、こりゃ面白そう。
ところが…
見た人たちから結構鈍い声目立つ。
『ギャラクシー街道』の再来…とまでは言わないが、一抹の不安が。
で、実際に見た感想は…
順に話をしよう。
三谷幸喜の話をしよう。
コメディはお手の物。ミステリーなら『古畑任三郎』。
そりゃ期待値は上がる。
ほとんど豪邸のワン・シチュエーション。コミカルな会話劇。
まるで舞台を見ている感じで、舞台出発の三谷幸喜の真骨頂。マルチに活躍するようになった三谷幸喜の原点回帰のようにも感じた。
そう言った意味ではやはりらしさ全開。これぞ三谷印。
長澤まさみの話をしよう。
ある時はツンデレ毒舌、ある時は行動力抜群で頭も良く、ある時は日本語が分からない中国人(?)、ある時は不器用で小声、ある時は家事も運転も上手。
一体どれが本当のスオミ…?
つまりそれは、色んな顔と魅力の長澤まさみが見れる。長澤まさみの金太郎飴!
様々なファッション、最後かもしれないセーラー服まで。ミュージカルも披露。
強くて美しい“王”は見れなかったけど、長澤まさみを見るなら価値あり。三谷幸喜曰く、長澤まさみで一本映画を撮りたくなるのも分かる。
しかし、“失踪した妻”役なのでずっと出ずっぱりではない。5人の夫こそ見もの。
5人の男の話をしよう。
1番目の夫、魚山。“さかなやま”と書いて“ととやま”。現庭師。スオミの学生時代の先生。長澤まさみに罵られ、“7000円”の迷言の遠藤憲一は本作で一番笑わせてくれた。
2番目の夫、十勝。自称実業家で、詐欺師紛いで、YouTuber。チャラい性格。登場は一番最後だが、松坂桃李が役柄同様自由奔放に。
3番目の夫、宇賀。警察の係長で、スオミを中国人と思っている。スオミの為に行使悪用するが、スオミにとっては“繋ぎ”で、三谷作品常連・小林隆が妙演。
4番目の夫、草野。宇賀の部下の刑事。後輩の小磯といち早く対応。“超”が付く真面目な性格だが、“超”が付く神経質。スオミとの夫婦生活でも…。西島秀俊はカッコいい役もいいが、コミカルな役は素と思えるほどハマる。
5番目現夫の寒川。著名な詩人で、人々の心に残る金言を綴った詩集もたくさん。人格者かと思いきや、傲慢な金持ちで、言葉も人遣いも荒い。ヤな感じと何処か憎めない感じ、坂東彌十郎が巧演。
この“五人五色”なやり取り、掛け合いが面白い。プラスして、
助演の話をしよう。
草野の後輩の小磯。ミーハーな今時若者。瀬戸康史がいい感じで笑いを挿入。
寒川の秘書かと思いきや、寒川の身の回りの世話…いや、こき使われている出版社の乙骨。戸塚純貴があたふた。
スオミの過去に必ず現れ、その時その時で違う謎の女。彼女も何者…? 宮澤エマが印象残す。
三谷作品のトレードマークとなった豪華キャストだが、これまでのような“超”が付くビッグネームずらりではなく、初参加も多い今回のキャスティング。実質の登場人物も9人ほどだが、それぞれの役柄や立ち位置も明確で、それがまた舞台劇のようなアンサンブル。
面白かった点、ビミョーだった点の話をしよう。
先述の通り、“五人五色”。自分が一番スオミを愛していた、意地の張り合い、見栄。時々、分かるぅ~と夫たちならではの共感。
一人の女に翻弄される男たち。男ってバカね…と感じつつ、何故か彼らが可笑しく可愛らしい。
そんな彼らを見てスカッとするほど大笑いしたい所だが…、笑いはクスクス程度。勿論ちょいちょい笑いがこぼれる所もあるが、大笑いを期待した人に物足りないかも…。
いやそもそも、三谷作品に於ける大笑いは『ザ・マジックアワー』での佐藤浩市のナイフ舐めがインパクト強すぎただけであって、このクスクス笑いや安心して見れる作風や話の展開に唸るのが本来の三谷作品かもしれない。
しかし…、そんなクスクス笑いも今回はちと不発が多かった。セスナ機内なんかはただのドタバタ。
笑い以上に気になったのは、話やミステリー。
う~ん…、ちょっと残念だったかな…。
話の展開の面白さや『古畑任三郎』のような鮮やかなミステリーや伏線は今一つ…。これなら似た設定の『キサラギ』の方が圧倒的に面白かった。
事件の真相は、やっぱりね。
戸塚純貴や宮澤エマの立ち位置など何となく予想出来る。
スオミという女は…? ミステリーの肝のここが弱かった気がする。
ネタバレチェック付けるので触れるが、それぞれの夫に合わせていた…って、何か期待していたものと違う。
キュートでミステリアスで自由奔放に見えて、実は自由が無いスオミ。女性の自立と自由を一見描いているが、その描かれ方がステレオタイプ。
って言うか終わってみれば、“ビバ!ヘルシンキ!”だったの…?
つまらなくはなかったけど…、『ギャラクシー街道』なんかよりかはずっとマシだけど...、もうちょっと楽しみたかったかな。
三谷幸喜もいつの間にかハードルが上がっている。
それもこれも三谷作品に期待しているから。日本コメディの雄として、純粋に楽しみたいし、笑いたいし、演出・脚本に唸りたいから。
そんな三谷作品を見て、三谷幸喜の話をこれからもしよう。