「【”耳の聞こえない母と父は僕を必死に育ててくれた。どんなに僕が酷い事を言っても。”今作はコーダとして生まれた男の葛藤と成長物語で有り、且つ今作がシネコンで上映された意義は大きいと思った作品である。】」ぼくが生きてる、ふたつの世界 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”耳の聞こえない母と父は僕を必死に育ててくれた。どんなに僕が酷い事を言っても。”今作はコーダとして生まれた男の葛藤と成長物語で有り、且つ今作がシネコンで上映された意義は大きいと思った作品である。】
■聾者の両親の子として産まれた大(吉沢亮)は、器の大きな父(今井彰人)と明るい母(忍足亜希子)の愛情を受け、優しい子に育つ。
だが、大が年頃になるにつれ、聾者の両親が疎ましくなり、成人すると東京でバイト生活をするようになる。
◆感想
・ご存じの通り、コーダ(聾者の両親を持つ健常者)を描いた映画としては、秀作「CODA コーダ あいのうた」や「エール!」が洋画にはある。
だが、私は邦画でシネコンで掛かるコーダの映画を初めて観た。
その事自体が、画期的だと思う。
・更に、主人公の大を演じた吉沢亮さんが、コーダの葛藤する姿を高校から30代まで見事に演じているのも、魅力である。
そして、吉沢さんが手話を巧みに使う姿には、プロの役者根性を感じたモノである。
吉沢さんと言えば、人気若手俳優の筆頭株である。
そんな彼がこの作品への出演を承諾した事も立派だと思ったし、役者としての幅も更に広げる一作となったのではないかな。
・物語自体は、大の誕生から30代までを一気に見せる為、ややシーンの繋ぎが粗かったり、エンターテインメント要素もやや薄いと思う。
だが、この映画は、聾者の両親の元に育ったコーダの青年の葛藤と成長を丁寧に描いた映画であり、ラストに観る側にとても心に残るシーンを届けてくれるのである。
・大が、第一志望の高校を落ちた時に母に手話で言った言葉。
”こんな家に生まれなければ良かった。”
その時の、母を演じたご自身も聾者である忍足亜希子さんの哀し気な表情は、観ていて辛い。だが、そんな彼女を自身も聾者である今井彰人さん演じる父は、優しく励ますのである。
・大が東京に行って、生きる事の厳しさを経験するシーン。面接には次々に落ち、パチンコ屋のアルバイトで生活する中、母親から届く手紙と食料品の入った段ボール箱。そして、5000円が入った封筒。
大は、徐々に如何に両親が自分を愛情を持って育ててくれたかを理解していくのである。
■大が東京に帰る時に、母はわざわざ駅まで見送りに来る。
そして、大はそんな母の姿を見て小さい頃からの母の表情をプラットフォームの上で次々に思い出し泣き崩れるシーンは、吉沢さんの畢生の演技も有り、涙が出てしまったよ。
<今作は、エンターテインメント要素はやや薄いかもしれない。だが、私は今作を指示する。それは、今作が邦画では貴重な、聾者の両親の元に育ったコーダの青年の葛藤と成長を丁寧に描いた映画であり、母の子を想う姿は心に染み入った映画でもあり、且つシネコンでこの映画が上映された意義は大きいと思ったからである。>