劇場公開日 2024年2月9日

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瞳をとじて : インタビュー

2024年2月10日更新

31年ぶりの長編映画公開 ビクトル・エリセ監督に聞く

ビクトル・エリセ監督
ビクトル・エリセ監督

スペインの巨匠ビクトル・エリセが31年ぶりに発表した長編映画「瞳をとじて」が公開された。元映画監督と失踪した人気俳優の記憶をめぐって繰り広げられるミステリータッチのドラマだ。役者が他者を演じること、老い、記憶、そして映画への深い愛を繊細なエピソードを積み重ねて描き、「ミツバチのささやき」(73)をはじめとしたエリセ監督の過去作のファンにとっては、まるでタイムカプセルが開かれたような感慨と驚きをもたらす1作だ。

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このほどエリセ監督が日本向けの公式インタビューとともに、映画.comのメールインタビューに応じてくれた。

※記述には一部ネタバレがあります。

本作では「ミツバチのささやき」で主演したアナ・トレントの出演が話題を集めている。その経緯を公式インタビューでこう明かす。「『瞳をとじて』の脚本に、あのシーンを入れたのは、50年前に『ミツバチのささやき』で同じセリフを言ったアナ・トレントのシーンを想起させるためだった。このシーンを撮影したとき、アナと私は大きな感動を覚えた」

「アナは女優だ。成長したアナは、演劇を学ぶためにニューヨークへ行った。私たちは50年間、友情を育み続けた。2021年末のある夜、彼女が出演していたマドリードの劇場の出口で、彼女に話しかけた。『映画の脚本を書いていて、登場人物の一人をぜひ、演じてほしい』と。彼女は即座に承諾した。それぐらい簡単だった」

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さらに、映画監督という主人公の設定ついて「このアイデアは私の想像から生まれた。映画監督という登場人物について考える場合、自伝的な人物になる可能性について語ることは、ほとんど避けられない。しかし、私が危惧するのは、それが結局、架空の人物像の理解を狭めてしまうのではないかということだ。確かに、彼に私の個人的な共謀(要素)をいくつか入れたことは否定しない。しかし、彼は私より、ずっと歌がうまい」と、実体験も含まれていることを語っている。

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▼映画.comインタビュー

――31年ぶりという久々の長編作品となります。長年のキャリアで映画監督として、ご自身のどのような変化を実感されていますか。

変わったのは、映画の製作や制作、鑑賞の仕方だ。リュミエール兄弟の当初の計画で、いま残っているのは、もはや映画館だけになった。映像作品は、しばしば過ぎ去った時代の残滓として扱われる。今や、映画はデジタル化され、テレビやコンピューター、タブレットや携帯電話で見ることができる。それが、かつて観客の居場所と呼ばれていた場所を地図から消し去った。デジタル映像の使用が、すべての映画制作のプロセスを実質的に変化させた。計算し制御する可能性を高めたからだ。だが、どれだけ技術が発達しようとも、世界の真の姿をどうとらえるか、という根本的な問題を解決することはできない。

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――冒頭とエンドロールで印象的に映される双頭の彫刻作品について教えてください。

これは2つの顔を持つローマ神話の神、ヤヌスの像だ。門や扉に関係する神で、扉を開いたり閉じたりする。また、物語の始まりと終わりにも関連している。ヤヌスはアルゼンチンの偉大な作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説『死とコンパス』(『伝奇集』所収) に出てくる「トリスト・ル・ロワ」 という場所の庭に登場する。1990年、私はこの物語を映画化するために脚本を書いた。

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――あなたは映画の中で、スペインの歴史も見つめています。数多くの映画監督、芸術家を輩出している国ですが、今後のスペイン映画界、後進に期待することを教えてください。

私にはスペイン映画を他の世界の映画と区別しない傾向がある。正直なところ、その未来がどうなるかはわからない。さらに言えば、過去に映画芸術と呼ばれていたものには、真の未来はないのではないかと感じることもある。映画が、ある種のインド・ヨーロッパ文明の芸術史における最終章になる可能性は十分にある。確かなことは、映画は20世紀の偉大な大衆芸術だったということで、その消滅は大きな損失である。

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