Ryuichi Sakamoto | Opus

劇場公開日:

解説

2023年3月に他界した世界的音楽家・坂本龍一の最後のピアノソロ演奏をモノクロ映像で記録したコンサート映画。

22年9月、東京のNHK509スタジオで行われた坂本龍一のソロコンサート。闘病生活を続けていた坂本は最後の力を振り絞り、自身のためにカスタムメイドされ長年コンサートで愛用してきたヤマハのグランドピアノだけで演奏に臨んだ。坂本の代表作として知られる楽曲「Merry Christmas Mr. Lawrence」、23年に発表した最後のアルバム「12」の収録曲、初めてピアノソロで演奏するYMO時代の名曲「Tong Poo」など、坂本が自ら選曲した20曲で構成。空音央監督をはじめ坂本が全面的に信頼を寄せたスタッフ陣が入念に撮影プランを練り上げ、親密かつ厳密な映像を生み出した。

2023年・第80回ベネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門出品作品。

2023年製作/103分/G/日本
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2024年5月10日

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映画レビュー

4.0一音の響き

2024年7月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

20曲のいずれも「一音の響き」を大切にした曲。
派手さはない。超絶技巧も要らない。
その分、演者の繊細な感性が求められる。内面が表出する。
一音一音を如何に想いを込めて、音を慈しむように表現できるか。
(ピアノという楽器は人間的で繊細で本当に凄い。こわいほどに。)

教授の楽曲は、教授の演奏は、まさに「滴のような音色」。
ピアノも弦楽器なんだというのを強く感じる。弦の響きが包み込む。

・『Aqua』はその名の通り「滴」だった。熱いものが込み上げる。
・『The Sheltering Sky』のサビ部分の弦の響き。素晴らしい。
・『Tong Poo』では楽しげな口元も。(他の曲だったかも。)
・『MerryChristmas Mr.Lawrence』。空から降ってくるような音。。

途中で演奏を止めて、イメージと合うところを何度も探り出すシーンも。作品に妥協を許さない姿勢。

静寂な空間。座っている姿勢を変えることさえ憚れる。この映画を観に来ている人はその辺良く分かっていて、皆微動だにしない。静寂。 途中、お腹の音が鳴って焦った。(笑

あまりに静寂だからか演奏時のバックに微かに聞こえる「プシュー」という音が気になった。酸素ボンベ?教授の鼻息?館内の空調? いや多分「ペダル音」なんだろうな。
途中からは気にならなくなったけれど。静寂であるがうえの現象か。

教授の刈り上げられた細い後頭部、皺のある長い指先。モノクロであることも相まって死が迫っているのを感じさせる。

エンディングの曲。そうきたかの演出。
ああ、行ってしまった。。

教授のように生命を完全に燃やして生きているか?自問する。
ありがとう。教授。

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momokichi

4.5Less is more. 死を前に教授がたどり着いた境地

2024年5月18日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

知的

萌える

そぎ落とすほどに豊か。まるで禅の公案のような一見矛盾した感慨を、「Ryuichi Sakamoto | Opus」の坂本龍一のパフォーマンスを鑑賞して覚える。

本作については当サイトの新作映画評論の枠に寄稿したので、よろしければそちらもご覧いただけるとありがたい。そこで「情報をそぎ落とした純度の高いモノクロ映像だからこそ、観客がそれぞれの記憶を重ねやすく、それが一層豊かな鑑賞体験につながるのだろう」と書いた。音数が少ないから、余韻にじっくり浸ることができる。余白があるからこそ、記憶が色鮮やかによみがえる。そんなふうに言い換えてもいいかもしれない。

演奏が片手になった時に空いているほうの手、あるいは最後の音をひき終えた後の両手を、虚空で優美に動かす仕草。想像上のオーケストラを指揮している弾き振りのようでもあるが、残響に触れているような手つきを見ているうち、空気を揺らすバイブレーションが弱まっていくのを指先で確かめ、コントロールさえするかのように思えてきた。空間を満たす音の粒と、まさに全身で一体化しているようなイメージ。

“教授”の愛称でも親しまれた坂本龍一は、新しい音楽に出会う喜び、演奏に向き合い没入する楽しさ、余韻をいつくしむ優しさを教えてくれた。評には「音楽と映画のファンに遺したラスト・ラブレター」と書いたが、教授からのラスト・レッスンとしても大切に記憶にとどめたい。

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高森 郁哉

4.5音のしずくを体全体で受け止め心を揺らす

2024年4月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

坂本龍一が音響監修を務めた109シネマズプレミアム新宿で行われた試写会にて、本作に触れた。一年前に亡くなった坂本龍一がこのモノクロームの映像の中で確かに息づいている。映し出される彼の後ろ姿。鍵盤を押さえる指の動き。すっと息を吸って表現へと昇華させていく表情。本作に刻まれるのはピアノ一台を使った演奏シーンのみだ。インタビューや経歴紹介などのドキュメンタリー要素もない。セットリストには私が中学生の頃から何百回と聴き続けた楽曲も並ぶが、これほど体全体で一音一音を受け止め、荘厳に広がりゆく音色に心を揺らした経験は初めて。指先から繊細に生まれる音のしずくが、身と心をゆっくりと満たしていくのを感じた。観客のいないスタジオで収録されたコンサートゆえ、そこには拍手などの要素も一切ない。それゆえ教授の演奏が映画館の客席の私たち一人一人に深く親密に語りかけているように思えるのだ。これほど貴重な贈りものはない。

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牛津厚信

5.0渾身の演奏を、最高の音響で

2024年12月24日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

レビューが遅れましたが、今年の夏、東京•新宿の109シネマズプレミアム新宿で鑑賞しました。こちらの映画館は、最高の音響を備えた映画館を作ろうと、坂本龍一さんご自身が関わって建てられたそうです。

※半年近く経って今ごろレビューする個人的事情ですが、この2ヶ月間に2回、立て続けにすさまじい風邪をひいたたため、寝たり起きたりが続いて映画館に行くどころではなく、、、この間にレビューしていなかった作品のレビューを書いたり、未見のDVDでも見たりしようかな、と考えました。

この作品を鑑賞したきっかけは、昨年、故 坂本龍一さんに関するドキュメンタリー番組をテレビで観て、最近の坂本龍一さんの音楽活動に関心を持ったことでした。中学時代の友人がファンであったこともあり、戦場のメリークリスマスやラストエンペラーのテーマ曲くらいは知っていましたが、自分の中では長らく遠い存在でした。

作品中、坂本さんは、時には演奏の合間に休みを入れなければならない程すでにご体調が悪い状態でしたが、ピアノと一体となってモノクロの空間に向かって放つ音は深く重厚で、素晴らしかったです。まさに渾身の演奏でした。
途中、YMOの「東風」を弾かれたところがあったように記憶しているのですが、多分メロディーのせいかな、とは思うのですが、一心に弾かれる坂本さんの姿が一瞬、一生懸命にハノンの練習曲を弾いている少年のように見えて、ふとどきながらその時だけは坂本さんの病いが重いことを忘れて(また巨匠と言われるような方に対して、その表現は失礼かなとは思いますが)、少し口元が緩んでしまいました。日常生活の中で、男性の中に少年の純粋さを見てハッとすることがたまにありますが、そういう瞬間でした。

演奏•収録する場所は、坂本さんたっての希望で、NHKの509スタジオとなったそうです。最高のスタジオで収録された音を、最高の音響の映画館で聴いた訳ですが、その音は、外国の石造りの教会で聴く音のように澄んで、奥行きがありました。

観客全員が、物音一つたてずに静まり返って聴き入った映画でした(こういう鑑賞の仕方は、なかなか珍しいです。素晴らしい体験でしたが、実際には自分が何か物音をたててしまわないか、めちゃくちゃ緊張しました(^^;) )。

これからも、「この作品こそは音にこだわりたい」という映像作品がこの映画館で上映されて、坂本さんのご遺志が受け継がれてゆくとよいな、と思います。

個人的には、映画作品にこだわらず、様々なジャンルの音楽の映像作品を上映してもらえたら、すごく嬉しいですね。
ロックでもジャズでもコンサートのライブ映像とか、、、クラシックだったら、今は亡き名ピアニスト、ルービンシュタインのモノクロでのコンサート映像など、ぜひ聴いてみたいです。

今ネットで見たら、この作品は12月現在、まだこちらの映画館で上映されているようです。
そろそろ風邪も病み上げて来たので、また坂本さんの澄んだ音に触れに、もう一度見に行くのもいいな、と考え中です。

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greens