コラム:どうなってるの?中国映画市場 - 第80回
2026年1月23日更新

北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数270万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”、そしてアジア映画関連の話題を語ってもらいます!
名古屋発のアニメ映画祭「ANIAFF」を“体感”して考えたこと 表現と産業の双方を射程に、“越えるべき壁”も実感

昨年末、映画館はまさに「ズートピア2」一色の賑わいを見せていました。その熱気のさなか、12月12日から17日にかけて、名古屋で第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)が開催されました。
個性豊かなクリエイターが集結したコンペティション部門をはじめ、オープニング作品として上映された話題の韓国アニメーション映画「Your Letter」、細田守監督特集、ストップモーション・アニメーションの映画で知られるライカ特集など、初開催とは思えないほど充実したラインナップが組まれていました。
また、新潟の国際アニメーション映画祭と同様に、アニメーション・カンファレンスでは業界の“いま”にフォーカスしたセミナーが行われ、さらにアニメーション企画マーケットも開催されました。上映にとどまらず、表現と産業の双方を射程に入れた映画祭であることが明確に打ち出されていました。筆者は初日から参加し、上映やイベントを通してこの新しい映画祭の姿を体感しました。
●“プレミア”に縛られない、観客本位のコンペティション

アニメーション映画は制作周期が長く、年間の作品数も限られています。とりわけ長編アニメーションのコンペティションを成立させること自体が、そもそも容易ではありません。そのなかでANIAFFは、ワールドプレミアに過度にこだわることなく、優れたアニメーション作品を観客に届けることを優先したセレクションを行っていました。この姿勢は非常に健全であり、結果としてラインナップの多様性と完成度の高さにつながっていたと感じます。
今回のコンペティション部門では長編アニメーション10作品が選出され、筆者はそのすべてを鑑賞しました。芸術性の高い作品から商業的完成度の高い作品まで幅広く、セル、ストップモーション、ロトスコープ、水墨画アニメーションなど、技法面でも多彩な表現が並びました。アニメーションという表現の現在地を一望できる構成だったと言えるでしょう。
●グランプリと準グランプリが示した方向性

グランプリ〈金鯱賞〉を受賞したのは、セス&ピート・スクライバー監督による「エンドレス・クッキー」です。カナダの先住民族をルーツに持つ兄と、白人として育った弟という対照的な立場を軸に描かれる家族の物語で、断片的で散漫にも見える語り口ながら、深い愛情と誠実な視線が貫かれています。アニメーションでも実写でも、これまであまり描かれてこなかった場所に踏み込んだ作品であり、今回のグランプリにふさわしい到達点を示していました。

銀鯱賞を受賞したのは、中国のウェンユー・リー監督による「燃比娃(ランビーワ)炎の物語」です。古代チャン族の神話をベースに、写意的な水墨表現を現代的な感覚で再構築した本作は、映像と技術の完成度が際立っていました。多様な技法が折り重なり、観る者を圧倒する一本でした。


© Miyu Productions – Ecce Films – Umedia Production – ARTE France Cinéma – CNRS - 2025
さらに、カンヌ国際映画祭・監督週間に選出されたフェリックス・デフュール=ラペリエール監督の「死は存在しない」、瀬戸桃子監督によるフランス/ベルギー合作「ダンデライオンズ・オデッセイ」なども、本映画祭の水準の高さを物語る注目作でした。
●細田守監督特集が生んだ、映画祭ならではの熱量

©2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
コンペティション以外で最も注目を集めた企画の一つが、細田守監督特集です。筆者が劇場で「サマーウォーズ」を鑑賞したのは、公開当時以来となりました。懐かしさを覚えつつも、AIによる社会インフラの掌握と混乱を描いた本作の予見性には、改めて驚かされました。

上映後には細田監督が登壇し、当時の制作背景や、AIが社会に占める現在の位置について語りました。アニメーションという表現を通して未来を描いてきた作家の言葉は、作品鑑賞と地続きで観客に届いていました。

さらにイベント後半には、主人公・健二を演じた神木隆之介がサプライズ登場しました。
16年ぶりの再会を果たし、当時16歳、現在32歳となった神木が「よろしくお願いします!!」という名セリフを再演すると、会場は大きな拍手と歓声に包まれました。映画祭ならではの、作品と時間をつなぐ象徴的な瞬間でした。
●カンファレンスとマーケットが映し出す“いま”

©つるばみ色のなぎ子たち製作委員会/クロブルエ
アニメーション・カンファレンスも、本映画祭の重要な柱です。「日本アニメとは何か? いま世界で何が起きているのか」と題したセミナーでは、Anime Limited元COOで、現在は講談社シニア・ビジネス・ストラテジストを務めるジェシカ・ポー氏が登壇し、記号論の視点から日本アニメーションの国際的な強みを分析しました。
また、片渕須直監督は、最新作「つるばみ色のなぎ子たち」の進捗を発表し、最新のパイロット映像を交えながら構想を語りました。
企画マーケットでは、今後の話題作となり得るプロジェクトのプレゼンテーションが行われ、制作者や配給関係者を中心に、アニメーション産業の未来について活発な議論が交わされました。
●認知度という、最初に越えるべき壁

濃密なアニメーション映画祭の時間を体験しながらも、やはり見過ごせない課題は存在します。その筆頭に挙げられるのが、映画祭としての認知度の向上です。
今回のメイン会場であるミッドランドスクエア シネマの入口には、大ヒット作「ズートピア2」のパネルが大きく掲出されていました。一方で、そのすぐ奥では、世界各地から集まった最先端のアニメーション映画を紹介する国際映画祭が開催されている──その事実に気づいていない観客も少なくなかったのではないでしょうか。

日本は間違いなくアニメーション大国であり、年間興行収入の半分以上をアニメ映画が占めています。しかし現状を見ると、「鬼滅の刃」や「チェンソーマン」といった強力なIP作品以外のオリジナルアニメーション、さらにはアートアニメーションへの注目度は、決して高いとは言えません。
そうした作品を、どのような文脈で、どのような形で観客に届けるのか。その役割を担える場として、映画祭は極めて重要な存在です。作品を上映するだけでなく、語り、比較し、位置づけることで、観客の視野を広げていく。その積み重ねこそが、アニメーション文化の裾野を広げることにつながります。
映画祭を通して、より多様なアニメーション表現が観客と出会う機会を増やしていくこと。それは日本のアニメ業界にとって、避けて通れない課題であると同時に、大きな可能性でもあります。
●名古屋から広がる可能性

名古屋は都市規模が大きく、アジアを中心に国際便も多い都市です。オープニングセレモニーで大村秀章知事が紹介したように、愛知県は「ドラゴンボール」の鳥山明氏、「僕のヒーローアカデミア」の堀越耕平氏の出身地としても知られています。近年はジブリパークの開業もあり、アニメーションとの結びつきは一層強まっています。
第1回ということで、まだ試行錯誤の余地はありますが、運営側から伝わってきたのは、アニメーションに対する確かな愛情と誠意でした。名古屋から始まったこの映画祭が、今後どのように育っていくのか。来年以降の展開にも、大いに期待したいところです。










