コラム:下から目線のハリウッド - 第28回

2022年3月4日更新

下から目線のハリウッド

「特別出演」と「友情出演」はどう違う? 知られざる映画の質問疑問リクエスト!

沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。

今回は、Podcast番組のリスナーから寄せられた、映画にまつわる質問疑問を答えていきます!


久保田:この番組、けっこうリスナーさんからの疑問質問のお便りをいただくんですよね。

三谷:そうですね。ありがたいことに。

久保田:ということで、今回はいろんな質問に答えていこうという回です。

三谷:なるほどなるほど。精一杯答えさせていただきます。

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久保田:じゃあ、まずひとつ目。こんな質問です。――「昔から気にはなっていたけどスルーしていたことなんですが、友情出演、特別出演ってなんなのでしょうか?」――ということで。これ、僕も気になっていたんです。

三谷: たしかに。「言われてみると見たことあるな」ってみんなが思っているところですよね。

久保田:出演している尺なのかなって思っていたんだけど、「友情出演」でもけっこう出てる尺が長いケースもあるし、だから尺じゃないのかなって。

三谷: そうですね。これですね、じつは私もよくわからないんですよ(笑)。

久保田:えー!ちょっと~!

三谷:で、以前、ゲストとして番組に出ていただいた落合賢監督に聞いてみて、なんとお答えを頂いてしまいました(笑)。

久保田:なんと。すごいですね。ありがたい!

三谷:ということで、回答をご紹介いたします。――まず、「映画やドラマのクレジットは、多くの場合は制作会社、配給会社の企画部署、メインのプロデューサーなどの交渉によって決定されます」と。

久保田:はいはい。

三谷:「主演の方が最初にクレジットされますが、助演の役者のクレジットの順番は、基本的には出番の多い順、物語の重要性の順で並びます。ただ、それにプラスアルファとして、役者の格(芸歴と知名度、事務所の業界での力、そして監督やプロデューサーとの関係性)が吟味されて決定されます」と。

久保田:「出番の多い順」「役の物語の重要性」、プラス「役者の格」。なるほどなるほど。

三谷: 「役者のクレジット表記では、最初に出るのが一番良い位置ですが、最後に出ることを“トメ”と言って、二番目に良い位置です。この部分に通常、主演じゃないけれど格の高い役者が表記されます」

久保田:そのパターンもよく見る。「トメ」って言うんだ。

三谷: 「ここで、“特別出演”という表記は、格の高い役者。普段なら主演を演じる大物俳優、または女優が主演以外の役、あるいはワンシーンのみのカメオ出演で出る場合に使用することが多いです」と。

久保田:なるほど。

三谷: 「そして、“友情出演”という表記は、ほかの出演者とは異なる経緯で起用された役者(主演、監督、プロデューサーと過去作品で繋がっている場合、役者本人が作品や監督に興味を持って普段の出演料以下で出演する場合など)に使用される場合が多いです」と。

久保田:へー!

三谷:「ただ、格の高い役者は複数いて、その格に見合うクレジットの位置を用意できなかった場合、特別出演もしくは友情出演という言葉を付けることで納得していただく場合もあります。また、ハリウッド映画には特別出演や友情出演という表記はないですが、助演だけど格の高い役者には、“スタービリング”と呼ばれ、メインの役者が表記された後に、例えば “withアンソニー・ホプキンス” とか、“andブラッド・ピット” みたいな感じで表記がされます」――というお答えを頂きました。

久保田:すごく詳しい解説だ。けっこう「役者の格」とか「ほかの出演者とは異なる経緯での起用」みたいなところは、他の要素に比べるとウェットな部分というか、明確には決まっていなさそうな感じですね

三谷:そうですね。いやぁ、私もちゃんとは知らなかったので勉強になりました。

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久保田:じゃあ次のおたよりにいってみましょう。――「知人に映画監督がおり、撮影の見学をさせてもらうことになりました。見学の際の注意事項や、これはしてほしくない、こんな差し入れはありがたいなど、教えてもらえたら嬉しいです」

三谷:こんなふうに映画の撮影現場を見学に行けるケースはけっこう珍しいですね。

久保田:そうなんだ。じゃあ、普通の人はあまりないケースかもしれないけどだけど、もし、撮影見学に行けるってなったらどんなことに気をつけたらいいですか。

三谷:一番は、やっぱり実際に撮影が進行しているので、できるだけ撮影の邪魔にはならないように気を付けたいですね。たとえば、テイクの途中で、役者さんやスタッフさんに話しかけちゃうとか。そういったことはなさらないようにしてもらえればいいかなと思います。

久保田:そうね。現場の方たちは真剣勝負で仕事してますもんね。差し入れはどうですか?

三谷:これも何を差し入れするのか難しいですよね。以前に仕事させていただいた現場であった話なんですけれど。

久保田:はいはい。

三谷:とある方が、真夏の暑い現場にチョコレートを差し入れてくださったことがありまして。

久保田:あー、それはありがたいけど溶けちゃうね(笑)。

三谷:そうなんです。なので、そういう物は避けたほうがいいかなと(笑)。あとは、たとえば、逆に寒い時期や場所での撮影だったりするとカイロを差し入れるということもあります。

久保田:それはいいね。すごく気遣いを感じる。

三谷:そうなんです。小さなものとかでもすごく嬉しいんですよ。そういった「できるだけ手を汚さなくて」「あんまり大きくないもの」というのは喜ばれると思います。

久保田:飲み物とかはどうです?

三谷:飲み物もまぁまぁいいと思うんですけど、人によってどんな飲み物が好きというのもありますし、ちょっとかさばるかもしれないので。お便りくださった方は、監督さんと知人ということなので、その監督さんにリクエストを聞くのもアリだと思います。

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久保田:じゃあ次いきましょうか。――「私は、自主映画を撮っています。友だちを呼んで上映会をしたり、動画サイトにアップして満足していたのですが、より多くの人に作品を届ける場合には、どのような方法がありますか?」という質問です。

三谷:この方は、会社員をしながらフリーで映像の仕事もしていて、そこで知り合った仲間達と自主映画などを制作しているみたいですね。これは素敵な趣味というか活動ですね。

久保田:すごいよね。仕事しながら何かの活動に専念できるって本当に尊敬しちゃうなぁ。

三谷:ほんとですね。映画ってやっぱりつくるのにはけっこう時間も手間もかかるものなので。で、ひとつ提案として私が思うのは、たとえば、「映画祭に出してみる」というのはいいんじゃないかなと思いました。

久保田:おー、映画祭。

三谷:映画祭って、けっこう面白い世界でして。賞に出して、入選とか賞を取ったりすると、その映画祭に招待してもらえたりすることもあるんですよ。場合によっては足代を出してもらえたりとかして。

久保田:へえー!

三谷:それでいろんな場所に行ったり、いろんな経験ができたり、交流が生まれたり。あとは、単純に露出が増える可能性があるのでいいんじゃないかなと思います。調べてみると映画祭も大小さまざまな規模で開催されていたりするので、そこを目指してみるというのは、多くの人に観てもらうためのひとつの道かもしれないです。

久保田:なるほど。ベンチャー企業でよく言われますけど、まずは最小単位の世界で一番になるのが、意外と勝ち筋としては正しいって言いますしね。

三谷:そうですね。

久保田:これは思いつきですけど、単館でやっている映画館とかの支配人や館長さんとかって、ちゃんとその映画をご覧になって吟味して自分の劇場で上映されていたりするじゃないですか。

三谷:はいはい。

久保田:で、そこから火が付くパターンとかあるじゃないですか。

三谷:ありますね。そういうところに売り込んでみるのもアリかもしれないですね。

久保田:そういう方々って意外と横でつながってたりすることも多いから、「なんか面白い人たちがいるんだよね」っていう情報がその界隈で回ったりとかね。

三谷:そういうこともあり得ますよね。そういう目標ができると、また自主映画を製作するモチベーションになったりもすると思うので、チャレンジしてみるのもいいですよね。

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久保田:じゃあ、最後の質問いってみましょう。――「国内映画で気になることがあります。それは音量です。家で邦画を観ていると話し声が小さくて、ボリュームを上げたら効果音が大きくなって、慌ててボリュームを下げたりします。どうして音量にムラがあるのでしょうか? 逆に、アメリカ映画にはあまり感じたことがありません。この違いは何かあるのでしょうか?」――ということで。

三谷:まず前半の部分ですけれど、「ミキシング」という工程にかかわる部分ですね。

久保田:はいはい。

三谷:映画にはいろいろな音素材があって、トラック数で言うと、100個以上はあったりするんですね。その数の音をステレオ音源として右と左のチャンネルに振り分け、音の大小をそれぞれ調節しながらまとめる作業が「ミキシング」です。その工程で、セリフの部分がやや小さくなったり、効果音が大きくなったりすることは、起こり得る話かなとは思います。

久保田:小さい声とかって、音量を上げすぎると、他の音とバランスとれなくて不自然になっちゃうこととかもあるだろうしね。

三谷:そうですね。なので、そこのバランスの問題なのかなというところです。あと、じつは日本の劇場の音は小さいっていうのはけっこうよく言われてたりするんですよ。

久保田:そうなの?

三谷:はい。なんでかと言うと、特に、日本の繁華街の映画館だと音が大きすぎると近所迷惑になったり、クレームが入ったりすることがあるそうなんです。だから、大きな音で上映するのはけっこう難しかったりするので、調整をあえて小さめにしているという話は聞いたことがあります。

久保田:そうなんだ。日本とアメリカだとベースの音量ってけっこう違うの?

三谷:いわく、アメリカで普通の音量は、たとえば、東京の立川にある映画館とかでやっている「爆音上映」みたいなレベルらしいです。

久保田:へー!

三谷:特にロサンゼルスとかだと郊外なので、大音量でもクレームになったりしないんですね。なので、そこは日本との土地柄とか文化の差だったりするのかなと。

久保田:なるほどね~。いやぁ、こうやってリスナーさんからの質問があるといろいろ知れて面白いですね。

三谷:そうですね。「友情出演」と「特別出演」なんかは、私もちゃんとは知らなかったので勉強できる良いきっかけになりました(笑)。


この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#67 「あれってどうなってるの?」質問疑問のお便り紹介SP!)でお聴きいただけます。

筆者紹介

三谷匠衡のコラム

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。

Twitter:@shitahari

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