コラム:下から目線のハリウッド - 第18回

2021年9月24日更新

下から目線のハリウッド

想像よりはハードルは低い!? 「フィルムスクール受験」のリアルとは?

沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。

今回のテーマは、映画業界の入口に立つためのひとつの道「フィルムスクール受験」について解説。どんな応募要項? 面接は? フィルムスクールの受験内容を語ります!


三谷:じつは今、フィルムスクール受験シーズンなんですよ。

久保田:初めて聞きましたよ、そのシーズン(笑)。

三谷:で、フィルムスクール受験戦線というのがありまして…。

久保田:今回は冒頭から一般人には耳馴染みのないワード連発ですね(笑)。その戦線はいつから張られるんですか?

三谷:毎年9月になると各フィルムスクールの受験要項が更新されて、だいたい締め切りが年末あたりになります。そのおよそ3カ月間がフィルムスクール受験シーズンであり、受験戦線が張られている時期ですね。

久保田:へ~。

三谷:というわけで、今回はその受験内容などを紹介していきたいと思います。

画像1

久保田:フィルムスクールの受験って何やるんですか?

三谷:簡単に言えば、「ES(エントリーシート)」と「面接」です。就職活動に近い形ですね。実際にいくつかのフィルムスクールの応募要項を出してみました。

久保田:今、目の前にプリントアウトしたものがあって、当然ですけど英語で書かれてますね。へー、こういう感じなんだ。

三谷:はい。だいたい「なぜ、ウチの科に来たいんですか?」みたいな志望理由の記載を求められるところはありますよね。それ以外だと、たとえば、USC(=南カリフォルニア大学)のプロデュース科の要項ですと、「これまでの人生の中で、乗り越えられないような状況が発生したときに、あなたはどのように対応しましたか?」っていう質問とか。


【実例】

Personal Statement
[訳注:志望動機書]

Answer the following questions in the supplied text boxes (do not upload them separately). When answering the questions below be very specific.
[訳注:付属のテキストボックスで次の質問に答えてください(個別にアップロードしないでください)。以下の質問は具体的に答えてください]

Why do you want to attend the Stark Program? (3,000 characters maximum)
[訳注:なぜスタークプログラム(USCプロデュース科の通称)に参加したいのですか?(最大3000文字)]

Tell us about a time when you faced an insurmountable challenge and how you responded. (3,000 maximum)
[訳注:これまでの人生の中で乗り越えられないような状況が発生したとき、あなたがどのように対応したか教えてください。(最大3000文字)]

※中略

Describe an emotionally significant experience in your life and how it affected you. (2,000 characters maximum)
[訳注:あなたの人生で感情的に重要な経験とそれがあなたにどのように影響したかを説明してください。(最大2000文字)]

Do you have a favorite existing film, TV show, web series, book, or play? Explain why it's a favorite. (1,000 characters maximum)
[訳注:好きな映画、テレビ番組、ウェブシリーズ、本、または演劇はありますか?
それが好きな理由も説明してください。(最大1000文字)]


久保田:へ~。これ、スクールによってはものすごくシンプルなところもありますね。

三谷:たとえばUCLA(=カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のプロデュース科だとこんな要項になっています。


Upload the Statement of Purpose.
Submit a 1-2 page document.

[訳注:志望理由書をアップロードしてください。1~2ページのドキュメントにしてください]


三谷:基本的には「以上!」という感じです(笑)。

久保田:でも、その下にも何か書いてますよ?


Upload a portfolio of Two Original Treatments
Submit TWO three-page Treatments
Treatments can be either Feature Film or Television Treatments
Please do not send scripts, DVDs or Films

[訳注:2本の作品の企画を3ページで提出してください。作品は長編映画またはテレビのもののいずれかになります。スクリプト(脚本)、DVD、またはフィルムは送信しないでください]


久保田:あー。要するに「ネタを2本出しなさい」ってことか。

三谷:そうですね。しかも、脚本や映像は使わず、3ページの企画書だけを提出してくださいってことですね。どうですか、これ?

久保田:「どうですか?」って?

三谷:ワンチャンどうですか?

久保田:なんでオレに受験させようとしてるんだよ(笑)。

三谷:いやいや、イケるんじゃないかなと思って。ほら、会社を経営しながら留学するという新しいスタイルで(笑)。

久保田:クビになっちゃうよ(笑)。それに仮にこの志望動機書を送って通ったとしても、面接になったときに英語が下手すぎて落されるでしょ。

三谷:あ、でも面接は「任意」なんですよ。

久保田:―――は?

三谷:面接を受けたい人は受けていいし、受けなくても合否において不利にはならないことになっています。

久保田:なにそれ!? 面接が任意って、そんな試験聞いたことないよ? それは、面接によって差別的なことが生じるかもしれないってことがあるから?

三谷:そういうことも可能性としてはあり得ますし、あとは面接の場に行きたくても行けないくらい遠い島国の人とか、オンラインでやるにしてもそれが環境的に難しい人とか。

久保田:あー、なるほど。

三谷:せっかくその人が才能あるのに面接を受けられなかったことで落とされるというのはフェアではないじゃないですか。そういうこともあって「面接は任意」なんです。

久保田:ちゃんと配慮してるんだね。

三谷:なので、実質的には志望動機書さえ書ければイケるんですよ。―――どうですか?

久保田:だからなんでオレに受けさせようとするんだよ(笑)。他にはまったく試験的なことはないの?

三谷:いくつかあります。外国の受験生だとTOEFLを受けないといけないんです。「TOEFL IBT(=Internet Based Testing:インターネットをベースとした試験の仕組み。受験者自身の端末で受験することが可能)」で120点中100点をとる必要があります。

久保田:これは実際、けっこうハードル高めですね。

三谷:ただ、その点数を満たしていないからと言って必ず不合格になるわけではなくて、学校側が主催するサマースクールで英語を補強することで留学を許可されるケースもあります。あとは大学での評定平均を提出するように言われます。それは「平均B以上」、つまり、優/良/可で「平均で良以上」であることが必要になります。

画像2

三谷:フィルムスクールの受験内容を紹介していったわけですけれど、ひと口に「フィルムスクール」といってもたくさんあるわけで。やっぱり業界で働きたい人は多いので、それでビジネスをするようなところもなくはないんです。

久保田:それは、いわゆる夢を食い物にしちゃう感じのところもあるってこと?

三谷:そういうスクールもなくはないですし、もちろん、カリキュラムもしっかりしていて後々のキャリアにつながるスクールもあります。なので、実際に受験をする人はそこをきちんと見極めていただきたいなと思います。

久保田:スクールビジネスというは、いろいろありますからね。たとえば志望動機書を代行して書いてくれる人とかいないんですか?

三谷:これはフィルムスクール受験で、というわけではないですが。別の分野での留学界隈では、代行とまでは言わなくても「志望動機書の添削をするビジネス」はあるみたいですよ。

久保田:へー。

三谷:あくまで聞いた話ですけれど、ビジネススクールに入るのに100万円をかけた人とかもいるみたいです。

久保田:100万円!? そんなのあるんだ…。

三谷:あくまでフィルムスクール受験とは違う界隈の話ですけれど。

久保田:でも、もし仮にそういうビジネスがフィルムスクール受験でもあったとして、それで受かっても入学してから苦労しそうだよね。

三谷:そうですね。なので、そこはやっぱり自分の力で乗り越えていくことに意味があると思います。あとはフィルムスクールの受験では、日本にはあまりない仕組みとして「推薦状」というのがあります。

久保田:「この人は素晴らしい学生ですよ」みたいなことを書いてもらうわけだ。

三谷:そうです。そこにもなんと言うか、裏道みたいのが昔はあって。受験者自身が文章を書いたものに推薦者にサインしてもらって、それを推薦状として提出するみたいなことがあったんです。

久保田:あー。なるほど。

三谷:ただ最近は、学校側から推薦者に対してwebサイトのリンクが送られて、そこに出ている質問に回答してもらう形式が増えてきています。

久保田:すごいね。いろいろな点でしっかり対策をとってるんだ。

三谷:というわけで―――どうですか?

久保田:だからオレは受けないって(笑)!


この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#64 フィルムスクールの受験内容ってどんなモノ?)でお聴きいただけます。

筆者紹介

三谷匠衡のコラム

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。

Twitter:@shitahari

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