コラム:下から目線のハリウッド - 第12回

2021年6月25日更新

下から目線のハリウッド

【お詫び】

前回掲載コラムにて、東映版「スパイダーマン」に関する記述に誤認識があったこと謹んでお詫び申し上げます。

また、「ブレイド」(1999)、「Xメン」(2000)、「スパイダーマン」(2002)の成功は、マーベルの長年の実写映画シリーズ成功の夢が叶った出来事であり、現在にいたるマーベル・シネマティック・ユニバースの成功の重要な起点だったにも関わらず、時系列の誤認識があったこと謹んでお詫び申し上げます。

今後このようなことがないよう、勉強し直します。

下から目線のハリウッド スタッフ一同


いったい何人いるの? 映画の「プロデューサー多すぎ問題」の舞台ウラ

沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。

今回のテーマは、目にはするけど、何をしている人なのかよくわからないけれど、いろんな種類の肩書がある「プロデューサー」について解説します。


久保田:映画のエンドロールを観てると「◯◯プロデューサー」っていう肩書きの人って、すごく多くないですか?

三谷:はいはい。

久保田:そのうえで「ディレクター」っていう人もいるし、「製作総指揮」とかって肩書きもありますよね。結局、「プロデューサー」ってどういう人で何しているのか、今いちわかってないんですよね。

三谷:実際、「プロデューサーとディレクターって何が違うの?」というのはよく聞かれますね。

久保田:よくわからないですよね。どういう違いがあるんですか?

三谷:いろいろな考え方はあるんですが、簡単に言うと、作品の中身の責任を持つのが「ディレクター」。作品の成立そのもののために尽力するのが「プロデューサー」ですね。

久保田:うーん。わかるような、わからないような。ちなみに、映画の「ディレクター」というのはイコール「監督」でいいんですか?

三谷:そうですね。「◯◯ディレクター」ではなく、単なる「ディレクター(director)」の場合は、その作品の監督を指します。で、「ディレクター」と「プロデューサー」の違いは、レストランで喩えるとわかりやすいんじゃないかなと思います。

久保田:ほぉ。

三谷:レストランには、「料理長」がいますよね。料理長は、たくさんの料理人に指示を出して自分の思った通りの料理をつくって、それをお客さんに楽しんでもらう。その部分の責任を負うのが料理長、つまり、ディレクターです。

久保田:なるほど。

三谷:じゃあ、「プロデューサー」はと言うと、そのレストランの「支配人」みたいなポジションだと考えてください。レストランの経営を担いつつ、料理長が気持ちよく料理をつくってお客さんに楽しんでもらう。その「環境」や「場」自体をつくるのがプロデューサーの仕事になるわけです。

久保田:はいはい。あー、イメージしやすい。そうやって聞くと「中身の責任を持つ人」と「作品の成立そのもののために尽力する人」っていうのも理解しやすいね。

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久保田:映画はプロデューサーがきっかけになって始まるんですか?

三谷:プロデューサーが、ある物語や原作、あるいは歴史だったりとか雑誌の記事だったりを「これを映画の題材にしたい!」と思って、監督や脚本家を見つけてくるという場合もあります。でも、アイデア自体はどこからでも出てくる可能性があります。

久保田:どこからでも?

三谷:たとえば、監督自身が「こういう映画を撮りたい」と言ったら、その作品を自身で監督もするけれど、同時にプロデューサーとしての役割も担うこともあります。その場合、監督自身も含めて何人かのプロデューサーがいるということもあります。

久保田:なるほどね。じゃあ、監督だったり、もしかしたら脚本家だったりが、プロデューサーに「この企画は面白いから一緒にやろうよ」って持ちかけることもあるわけだ。

三谷:ありますね。すごくざっくり言うと「企画の成立」に関わる人は、みんな「プロデューサー」にあたるイメージで、「企画を持ってきた」「企画の原案を書いた」「企画の権利をとってきた」という人も全体の中では、何かしらの形で、「プロデューサー」という役割を担っていることになるんです。

久保田:ところで、「◯◯プロデューサー」っていう人たくさんいるじゃないですか。

三谷:そうですね。「プロデューサー」が何をやってる人なのかが伝わりにくいのは、いろんな冠がつくプロデューサーが多いからかもしれないですね。ただ、肩書としての序列とか役割はわりとハッキリしてます。

久保田:将棋の駒でいうところの、「王将」「飛車・角」「金・銀」「桂馬・香車」「歩」みたいな?

三谷:そうですそうです! 映画の中でも「“王将”プロデューサー」から「“歩”プロデューサー」まであるんですよ。

久保田:あるんだ(笑)。ちなみに、「“歩”プロデューサー」はなんていう名前なんですか?

三谷:「アソシエイト・プロデューサー(associate producer)」です。ちなみに私は今、「“歩”プロデューサー」にあたります(笑)。

久保田:そうなんだ(笑)。

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三谷:なにも付いていないプレーンな「プロデューサー」が、将棋で言うところの「王将」にあたります。つまり一番偉い人ですね。企画の最初の立ち上げから、その映画が世に出たあとのマーケティングなんかにもしっかりと関わっていくので、一番、貢献度も高い人です。

久保田:へー。プレーンな「プロデューサー」が一番上なんだ。じゃあ、次の“飛車・角”にあたるプロデューサーは?

三谷:「エグゼクティブ・プロデューサー(executive producer)」ですね。

久保田:「プロデューサー」の下に「エグゼクティブ・プロデューサー」なの? 会社とかだと「Chief Executive Officer(CEO)」が、最高経営責任者で一番エライって感じなのに。

三谷:一般的に「エグゼクティブ・プロデューサー」は、「プロデューサーのさらに上の役職」と説明されることが多いし、日本語に訳すと「製作総指揮」になるんですよね。なので、プレーンな「プロデューサー」よりも偉い感じがするんですけれど、作品への関与の度合いで言うとプレーンな「プロデューサー」のほうが上であることが多いんですね。なんて言うとわかりやすいかな…。

久保田:会社で言うと、「会長」みたいな感じ? 経営の最前線に立っているわけじゃないけど、創業者だからとか、一定の影響力があるみたいな。

三谷:あー、ニュアンスは近いかもしれないです。たとえば、「製作費を出資してくれた」とか「ここの権利はこの人がいたからこそ取ることができた」みたいに、その映画の製作に欠かせない、すごく重要なポイントで貢献してくれた人が、「エグゼクティブ・プロデューサー」としてクレジットされたりすることが多いです。

久保田:あーなるほど。たとえば出資してくれた人って、現場をすべて仕切ったりするわけじゃないけど、その人いなかったら成立しないもんね。「功労者」みたいな人だ。

三谷:そうですそうです。

久保田:“王将”と“飛車・角”プロデューサーで、映画の重要なピースは揃いつつある感じですけど、次は?

三谷:“金・銀”にあたる「ライン・プロデューサー(line producer)」という人たちがいます。ここで言う「Line」は、「前線」という意味合いになります。つまり、映画製作の前線に立って現場の進行を司るプロデューサーです。

久保田:これも重要なポジションだ。

三谷:そうですね。全体の監修は王将である「プロデューサー」がやるんですけれど、実務の部分を担うのがこの「ライン・プロデューサー」になります。

久保田:じゃあ、けっこう汗かき役だ。

三谷:そうですね。お金の計算をしたり、物事を動かすための段取りを組んだり実行したりする人ですね。

久保田:現場での揉め事に対応したり?

三谷:場合によってはそういうこともします。他には、たとえば大道具や小道具部門の人が「あれが欲しい」「こういうものをつくりたい」ってプレゼンに来たりして、それに対してどう予算を割り振るかみたいな決裁権も持っていたりします。

久保田:へー!それは偉い人ですね。

三谷:次が“桂馬・香車”みたいなプロデューサーがいまして、それが「コ・プロデューサー(co producer)」と呼ばれる人たちです。この人たちは、王将、飛車角、金銀プロデューサーの業務の中で、彼らの手が届かない細かなところを担っています。

久保田:じゃあ、リアルに汗をかく人たちだ。会社で言ったら中間管理職みたいな。

三谷:で、その下に“歩”にあたる「アソシエイト・プロデューサー」がいます。プロデューサーはみんなここからスタートするんですが、言ってしまえば一番下っ端ですね(笑)。

久保田:コンサルの世界にも「アソシエイト」と呼ばれる、パワポの資料つくったり雑用をこなしたりする人がいますけど。

三谷:まさにそういうポジションです。

久保田:“歩”プロデューサーはひとつの作品に一人なんですか?

三谷:特に一人とは決まっていないですね。そこはプレーンな「プロデューサー」の裁量で配置される感じです。ただ、あまり多い人数は配置しないです。

久保田:予算がかかるから?

三谷:それもありますし、あまり多いとクレジットが薄まるからという部分もあるみたいです。なので、ひとつの作品に、一人か二人という感じですね。

久保田:えー、それはけっこう大変ですね。たとえば、グローバル展開するような大きな作品だとプロデューサーはどのくらいいるの?

三谷:それでも2、3人くらいじゃないですかね。

久保田:王将以外の「プロデューサー」と名が付く人全員ではどのくらいになるのかな?

三谷:全員だと……作品の規模にもよりますが、15人とか20人くらいになることもありますね。やっぱり映画に対して重要な貢献はそれぞれの人がいろんな形でするんですよね。その貢献に対して一番わかりやすい形が「クレジットに挙げる」ということなんですよ。
久保田:はいはい。「◯◯プロデューサー」って形で。

三谷:そうです。たとえば、「重要なロケ地を探してきた」といった貢献で、何かしらのプロデューサーという肩書きに名を連ねることもあるので、それで「プロデューサー」のクレジットがインフレを起こしていくというか。

久保田:あれだ。プロレス団体やその団体の中で、格の違いはあれどチャンピオンベルトがたくさんあるみたいな感じだ。

三谷:ちょっとプロレス知らないのであれですけど、そうなんですね(笑)。なので、「プロデューサー」というのは映画の成立においてヒト・モノ・カネの側面から、何かしらの大事な貢献をしている人、というふうに理解してもらえたらなと思います。


この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#11 製作総指揮って何やる人? 映画の「プロデューサー多すぎ問題」の舞台ウラ!)でお聴きいただけます。

筆者紹介

三谷匠衡のコラム

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。

Twitter:@shitahari

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