コラム:清水節のメディア・シンクタンク - 第12回
2015年4月16日更新
第12回:ゴジラが吠える歌舞伎町シネコンは、IMAXからアニメ・韓流まで“全部入り”!
JR新宿駅から歌舞伎町へ向かい、靖国通りの手前で前方を仰ぎ観てハッとたじろぐ。高さ52mで睨みを利かせるゴジラの想像以上の威圧感に、古い昭和の記憶が甦った。新宿に住んでいた幼少期、自宅の窓から東南の方角に小さく見える東京タワーめがけ、ゆっくりと前進するゴジラの雄姿を、僕は何度か目撃している。いや、観たような気がする。やはりあれは幻影ではなかった、と妙に納得してしまう自己肯定感。60年以上前に誕生した空想特撮映画の生き物が、フィクションの中のサイズのままリアルを侵蝕することに、何ら違和感がない。
4月17日にグランドオープンする「新宿東宝ビル」は、すでに一部関係者の間で“新宿ゴジラビル”とも呼ばれている。原寸大の怪獣出現を、メディアはテーマパークの新アトラクション並みに取り上げ、新宿区からは特別住民票を授与されて観光特使に任命されるという歓迎ぶり。ゴジラヘッド点灯式の席上、市川南 東宝取締役はこう語った。「ゴジラは新宿を3回襲ってきました。これまでは破壊するばかりでしたが、これからは新宿そして歌舞伎町の発展をお手伝いしていきたい」。背びれを光らせ咆吼をあげ、繁華街の浄化にも一役買うわけだ。
■3度破壊した新宿の発展に貢献する最強アイコン
ビルの中核は、3~6階に入る都内最大級のシネコン「TOHOシネマズ新宿」と8~30階を占める高層ホテル「ホテルグレイスリー新宿」。さらに、アミューズメントや飲食物販などの施設も。ホテルに設けられた、ゴジラを覗き見る<ゴジラビュールーム>やマニア垂涎の<ゴジラルーム>については別のレポートをお読み頂くとして、ここでは、新ランドマーク「ゴジラヘッド」の造形と、「TOHOシネマズ新宿」について掘り下げていこう。
ビル8階の屋外テラスに設置されたゴジラヘッドは、「ゴジラvsモスラ」(1992年)の撮影で使用し、保管してあったゴジラ原型を3Dスキャンで起こしたものだ。設置面積258㎡、重さ80トン。高さはテラス床面から12m。ホテルの高さ約40mを加えトータルで52m。昭和のゴジラとほぼ同じ高さになる。造形を取り仕切った責任者に訊いてみた。「観客動員が平成ゴジラシリーズ最多の420万人という記録を誇り、あらゆる年齢層に訴えかける“モスゴジ”を選びました。鉄骨の補強など基本設計に時間がかかり、工期は約半年間。材質はガラス繊維で補強したセメント、GRC。目玉や口の中は強化プラスチック、FRP。靖国通りから観上げて認識できるだけでなく、8階テラスから観て完全な後ろ姿にならぬよう、ギリギリの角度を選んでポーズを決めました。演出的には、雷で始まり、目覚めてうめき声を上げ、足音が聞え、鳴き声をあげて、ミストを吐くという流れになっています」(東宝映像美術・郡眞剛)。本家本元による正真正銘の造形であり、迫真のサウンドとギミックが堪能できる。
■平成ゴジラシリーズ川北紘一特技監督 最期の仕事
それもそのはず、平成ゴジラシリーズのうち「vsビオランテ」(1989年)から「vsデストロイア」(1995年)までの6作を手掛け、昨年12月に亡くなった川北紘一特技監督が、生前の最期の仕事としてこの造形物全体の監修を行っている。地上から観上げた視線をも考慮し、ややそり出した頬肉を削り、鼻を少し突出させて、ゴジラの表情を視認しやすくするという指示を与えたのも川北特技監督だった。
また、ゴジラヘッドの土台には、激闘の歴史を刻んだレリーフが3点あしらわれている。モチーフは、初代「ゴジラ」(1954年/造形:利光貞三)、復活「ゴジラ」(1984年/造形:安丸信行)、「ゴジラvsモスラ」(1992年/造形:小林知己)。すべての原型を粘土から削って造形したのは「モスラ」(1961年)から東宝特撮美術に携わった、安丸信行。東宝の本気度が窺い知れる。こうなると将来的に「新宿ゴジラ2015」は、ギャレス・エドワーズ監督の2014年版「GODZILLA」と、脚本・総監督:庵野秀明×監督・特技監督:樋口真嗣による2016年版「ゴジラ」の狭間を埋めるゴジラ出現史として記憶されることになるかもしれない。
そんなゴジラを象徴とする巨大シネコンは、新宿の映画興行をどのように変えようとしているのだろうか。
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